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MASAHIRO KIMURA
滋賀県情報
2018.12.11
乳酸発酵のチカラ、湖国の食文化「鮒ずし」
滋賀の郷土食「鮒ずし」。かつては冬の貴重なタンパク源であったほか、
疲労回復や整腸作用があるとして地元で愛されてきました。
近年では正月や祭りなど「ハレの日」の縁起物として珍重されています。
鮒ずしを作り続けて約35 年という木村水産㈱(屋号:あゆの店きむら)の木村昌弘さんに、
その潜在力についてうかがいました。
―鮒ずしというと、においで敬遠される方が多いと聞きます。
ひと昔前は「腐った魚が届いた」とクレームが入ることもありました。しかし近年は、健康志向の高まりとともに発酵食品として認知されるようになり、そういうことはなくなりました。若い世代でも食に関心の高い方はチーズと似た味わいを楽しんでくださっているので、先入観がない状態で食べていただいたほうが良い反応をいただいているように思います。うまく発酵した鮒ずしは骨まで軟らかく、においも穏やかで塩と酸味のバランスが絶妙です。そうしたものを召し上がっていただきたいです。
長年経験を積んでも樽をあける瞬間はいつも緊張するという。
―おいしい鮒ずしを見分けるコツはありますか?
これは私の主観ですが、わかりやすいのは卵の色ですね。卵が鮮やかなオレンジ色のものは、塩と酸味のバランスが良いように思います。店頭に並んでいるものはもちろんどれもおいしいですが、スライスされた鮒ずしの卵を見て、きれいだと思えるものを選んでいただくと良いですよ。
春に獲れたニゴロブナを塩漬けし、夏に塩抜きしたものをご飯とともに漬け込む。夏の高温で一気に乳酸発酵が進み、一年以上かけてじっくりと熟成する。
―御社のこだわりを教えてください。
鮒ずしは、蔵に住む菌の違いで味に差が出ると言われているので、10 年ほど前に蔵を建て替えた際は、古い蔵の壁の一部を持ちこむなどしました。また、うちでは原料となるニゴロブナの鮮度にこだわり、ウロコ一枚残らないよう丁寧に塩漬けします。さらに魚と白米を漬け込むときの手水にはみりんを使い、一年以上寝かせて十分発酵するので、においは抑え気味で、なおかつ鮒ずしの旨味はしっかり味わっていただける仕上がりになっています。
魚の油分と発酵の作用で手肌がなめらかに。
―昨年、男女とも滋賀県の健康寿命が全国1位と発表されました*。どのように受け止められましたか?
昔から鮒ずしは、お腹が痛いときは整腸作用があるから食べなさいとか、風邪のときは滋養があるからお吸い物にして飲みなさいといわれてきました。鮒ずしの歴史は1000 年以上もあり、連綿と受け継がれた先人の知恵というのは、あながち間違いとは言いきれない気がするのです。鮒ずしには乳酸菌が豊富で、その乳酸菌が血圧を下げることは研究でも確認されているので、つくり手としては、長寿県となった基礎の部分で貢献できたこともあるのではと思いたいですね。
発酵の力で80KGの重石が「踊る」こともある。
―発酵文化の担い手として目標は?
琵琶湖の水産物で商売をさせていただいていることに感謝し、鮒ずしの味と技術をしっかり後世につなぐことが使命と感じています。そのためには、後継者の育成と同時に、品質向上の努力を惜しまず、地元の食材の新たな価値づくりに挑戦しつづけたいと思います。
* 東京大学「日本の都道府県別の疾病負荷研究(1990~2015 年)」。
■ PROFILE
木村 昌弘(きむら まさひろ)さん
木村水産株式会社 代表取締役社長
1961年生まれ。彦根で生まれ育ち、近畿大学農学部水産学科を卒業後、食品関連会社を経て家業に入る。鮒ずしのほか、鮎の加工品、県内農産物や琵琶湖産の食材を用いた「近江 朝おかず」シリーズなどを製造販売する。公益社団法人彦根観光協会 副会長として地域観光のPRにも努める。
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撮影・山崎 純敬 / SHIGAgrapher
ライター・大山 真季