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TERUTO KITAJIMA

滋賀県情報

2019.02.08

 

ザ・SAKE・クラシック ―日本酒づくりの原点回帰―

-14 代目蔵元 北島輝人さんの挑戦-

 

古い町並みが残る湖南市の旧東海道沿いに、日本酒の蔵元「北島酒造」はあります。

先代が築いた「御代栄」の評判に甘んずることなく、新ブランド「北島」をリリースし、

幻の酒米といわれた「渡船」の復活や、「生酛づくり」などの製法に取り組む

14 代目北島輝人さんに、その思いをうかがいました。

 

 

―伝統ある酒蔵を継ぎながら、どのようにご自分の酒づくりをめざしたのでしょう。

 

先代がそれまで業界の主流だった大手メーカーへの桶売りをやめ、純米酒や吟醸酒などの高級酒を製造していました。しかし、消費者の日本酒離れは進むばかりで危機感があったので、つくり手の顔がみえる販売をしようと、新ブランド「北島」をリリースしました。御代栄はいつでも安定した味を求められますが、北島は「今年はこういう味です」と変化をよろこんでもらえる酒です。酒米や製法違いをシリーズ化して、熱烈な日本酒ファンにも楽しんでいただけるようにしました。また、当時、幻の酒米といわれていた「渡船」の復活にも取り組みました。いまでは滋賀県の酒米といえば渡船と言われるくらいに定着しています。

 

 

速醸、山廃、生酛、完全発酵、泡なし酵母、泡あり酵母…さまざまな製法を試して、自分が美味しいと感じたものを選択してきた。

 

 

―試行錯誤はありましたか?

 

はい、その繰り返しです。ですが、「生酛づくり」との出会いは大きかったです。というのも、30 代になると燗(かん)にして旨い酒を欲するようになりました。熱燗は悪酔いのイメージがありますが、むしろ逆で、次の日に残らないし、自分のペースで飲めるいい飲み方なのです。それに気づかせてくれたのが、生酛づくりの酒でした。生酛づくりは、乳酸を添加して短時間で発酵をすすめる速醸と違い、空気中に浮遊する乳酸菌を取り込むために手間も時間もかかる一度は廃れた製法です。しかし、そうして出来上がった酒は、燗にすると酸と旨味がグッときたあとスッとなじむ酒になりました。グッとくるから食べものを欲する。スッとひくからまた飲みたくなる。酔い覚めも良いのでぜひ食中酒で味わってほしい理想の酒です。この学びは、代々続く御代栄の酒づくりにも活かされています。渡船にしても生酛づくりにしても、廃れたのは効率重視の人間都合。クラシックな製法、クラシックな味わいに、良いものが残されている可能性は十分にあります。

 

 

泡あり酵母の醪(もろみ)。泡が出るぶんタンクの容量いっぱいつくれず、掃除の手間もかかるため使う蔵は少ないが「この味が好きだから」と妥協を許さない。

 

 

―これからの日本酒シーンに対する思いをお聞かせください。

 

高齢化が進んでますます日本酒業界はきびしくなるでしょう。幸い、海外需要が伸びていますが、なかには温度管理に非常に気を遣う酒もあります。それを考えると、売り手の教育が必要なのと同時に、どんな環境にも堪えて時間の経過とともに美味しくなる熟成酒の良さを広めるべきだと思います。いま滋賀県の地酒は、若手の蔵元がそれぞれ独自の酒づくりをする面白い局面を迎えています。地酒を突き詰めていくと、自分を表現する酒「自酒」になると思います。そこを楽しんでもらいたいですね。

 

 

趣のある店内には酒がずらりと並ぶ。

 

 

 

 

■ PROFILE

 

 

北島 輝人(きたじま てると)さん

北島酒造株式会社 代表取締役

 

酒蔵に生まれ育つ。東京農業大学農学部醸造学科卒業後、酒類総合研究所を経て、オーストラリアの酒造メーカーで初めての酒づくりに取り組む。平成9年に実家に戻り、25年に14代目として蔵元を継ぐ。

 

 

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撮影・山崎 純敬 / SHIGAgrapher

ライター・大山 真季