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CHIZURU KURITA
滋賀県情報
2019.09.08
自然の造形×土の声×色の奇跡
「CLAY STUDIOくり」栗田千弦さんが生み出す信楽焼の世界
信楽焼のたぬきが温かく出迎えてくれる町、甲賀市信楽。
その町の一角に、女性陶芸家 栗田千弦さんが営むお店「CLAY S TUDIO くり」はあります。
暮らしに寄り添うような温かさのある栗田さんの作品には、
どのような背景があるのでしょうか。作品へのこだわりなどを伺いました。
―「CLAY STUDIO くり」はどのようなお店でしょうか。
「CLAY STUDIO くり」は、飽きのこない色合いや、信楽焼らしい温かみを楽しんでいただける、軽くて丈夫な陶器をお作りしています。初代だった父が8 年前に急逝し、助手だった私が二代目として後を継ぎました。父から受け継いだ食器、蚊遣(かやり)、ランプシェードなどのほかに、私自身の作品や、オーダーメイドも承っています。
栗田さんの手仕事は、この手から生み出される。
―先代の後を継ぎながら、ご自身の作風を見出すまでには、相当のご苦労があったのではないでしょうか。
父の遺志を引き継いでいこうと後を継いだこともあり、当初は自分の作品をつくる必要性を全く感じませんでした。けれど、いざ器を作ってみると、お客様がすごく楽しそうに使ってくださっていて。私が今こうして自分の作品も積極的に作ることができるのは、そのことに気づかせてくれたお客様のおかげです。また、父が遺してくれた人のつながりにも感謝しています。私が技術的なことや店の運営のことで困っていると、いつも誰かが助けてくれました。信楽は小さな町ですが、仲間として認められるとすごく親身になってくれるんです。そういうところがこの町の良さだと思います。
信楽焼らしい褐色の湯呑も。不揃いなドットに栗田さんの遊び心が詰まっている。
―“ここ滋賀”で女性に人気のある栗田さんの作品ですが、インスピレーションを受けるものや、こだわりはありますか。
自然の造形を見ていると、人間がとても真似できないような色や形をしていておもしろいです。最近は植物、特に種や多肉植物などが好きで、じっくり眺めているときがあります。あとは、土がどうなりたいかを考えながら、手びねりで好きに形作ります。ざっくりとした作風は、土質によるところが大きいかもしれません。色で遊ぶことも好きですね。私は乳白色の釉薬をよく使いますが、実は一つとして同じ色がありません。凹凸に応じて釉薬に濃淡が出たり、結晶のような斑紋の出かたも違っていたりします。狙い通りの色を出せることも大切ですが、奇跡的な色との出会いを楽しめるのは、陶芸の魅力のひとつだと思います。使い勝手や強度なども考えて作るので、飾られるよりは使ってもらえる器を目指しています。
こぼれ落ちた種のような急須。乳白色のやさしい雰囲気は女性に人気。
―これから挑戦したいことはありますか?
まだ使ったことのない釉薬や、ご要望があれば大きいものにも挑戦したいです。自分の好きなことをしていると、独りよがりかも?と不安になるときもありますが、亡き父が「良し悪しを決めるのはお客様。」と言っていたことを思い出します。これからも父の思いを受け継ぎながら、私らしく作品を作りたいと思います。
栗モチーフの看板と暖簾が店の目印。
■ PROFILE
栗田 千弦(くりた ちづる)さん
「CLAY STUDIO くり」 店主
1981年 滋賀県日野町生まれ。2004年 京都産業大学文化学部卒業、同年 京都の古美術品の会社に入社。
2007年 CLAYSTUDIO くりにて助手を始める。
2011年 信楽窯業技術試験場素地釉薬科修了、同年 CLAY STUDIO くりの二代目店主となる。
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撮影・山崎 純敬 / SHIGAgrapher
ライター・大山 真季