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KOTARO IKEJIMA

滋賀県情報

2021.11.15

この人の作ったものなら大丈夫
『信頼できる麹屋』になるということ

 

「麹くださいな」。近所から、遠方からここにやって来る人がいます。
今ではすっかり珍しくなった『まちの麹屋さん』として米麹を製造、量り売りする、
ハッピー太郎醸造所の池島幸太郎さん。麹の扱い方やレシピの説明を通じて、弾む会話も来店の魅力。
麹作りにかける思いや、近々に迫った新たな挑戦について伺いました。

 

―屋号に「醸造所」とあります。どのようなお店なのでしょうか?


現在は『麹屋』として、米麹を製造し販売しています。この自家製麹を使って作った味噌や甘酒なども揃えています。
もともと麹屋はどの集落にも1軒はある、暮らしに寄り添う生業(なりわい)でした。それがどんどん失われ『麹難民』が増えているとも耳にし、自分の経験と技が地域のお役に立てるのではないかと考えたのが開業のきっかけです。

 

築100年超の母屋と蔵の間を利用した工房。土壁に杉板を貼り柿渋で塗装。

 

―酒蔵にお勤めだったのですよね。


島根県の有機農業を営む法人を経て、同県の日本海酒造、滋賀県の冨田酒造、岡村本家で通算12年修行してきました。酒造りには『一麹、二酛(もと)、三造り』という言葉があるほど、麹が重要な役割を果たします。ありがたいことに自分はどの酒蔵でも『麹の守(も)り』を任されてきました。 
そもそも麹は、米や麦、大豆などの穀物に麹菌を繁殖させたもので、醤油、味噌、酒といった日本ならではの発酵食品を作るとき、食材を発酵させる役割をしてくれます。麹にはたくさんの酵素が含まれていて、タンパク質をアミノ酸に、でんぷんを糖に、脂質をグリセリン等に分解して、これが発酵食品の旨みや甘みを引き出してくれるんです。
ただ、一口に麹といっても、使う菌、原料、菌を植え付けた米を蒸す時間、温度管理、製造環境などで性格が大きく異なります。だからこそ、原料や工房、製造工程すべてを公開することで安心して使ってもらえる、そんな『信頼できる麹屋』になろうと努めてきました。

米糀の原料米は「自分が会いに行ける距離」の2軒の農家の2種を使う。

 

―甘酒や味噌のほか、鮒ずし、お漬け物などの発酵食品も揃えておられますね。


ぜひ試していただきたいのが、玄米で漬けた鮒ずし。ふつうは白米を使って鮒を漬け込みますよね。ここで精米していないお米を使うと、乳酸菌の働きが変化し、出来上がりがリンゴのようなフルーティーな香りが生まれ、驚くほどに食べやすいんです。
うちへ来てくださるお客さんの多くは、小さな子どもをもつ親御さんをはじめ、食への意識や関心が高い方。驚かれるかもしれませんが、酒蔵に勤めていたころは『お酒を飲む』お客さんしか知らなかったんです。世の中には子どもや高齢者も含め『飲まない』『飲めない』人がいることを今さらながらに知り、こうした皆さんから、食への新しい視点や価値観をいただいていると思います。

 

 

 彦根の古くからの静かな集落にある店舗。今後湖のスコーレが活動拠点となるため、こちらは閉鎖予定。

 

―近く新しい事業展開を予定されているのだとか。


12月に長浜市に開業する、発酵をテーマにした商業施設「湖(うみ)のスコーレ」に拠点を移し、従来の事業に加え、免許を取得しどぶろく醸造に取り組みたいと考えています。どぶろくは米と米麹と水を原料として発酵させただけの、漉(こ)していないお酒のこと。白濁したにごりは米の栄養や旨み、甘みがそのまま残されている、お米が丸ごと溶けていることの証です。これまで作ってきた米麹と同様に、私が信頼する農家さんのお米を使います。これは突き詰めると、お米が育つ土への信頼でもあると考えています。
滋賀県の田んぼの土は、その水を通して、琵琶湖へと繋がっています。滋賀に暮らす人なら、誰もが琵琶湖を無視することはできません。湖に導かれるように滋賀ならではのどぶろくを発信していくつもりです。

 

 

 

 

■ PROFILE

 

池島 幸太郎さん(いけじま こうたろう)さん

1978年生まれ。大津市出身、京都大学文学部卒後、県内外の酒蔵従事を経て、2017年に彦根市に「ハッピー太郎醸造所」開業。
今年12月からは長浜市に新設される複合ライフスタイルショップでどぶろくの製造を担うべく、醸造免許を申請中。

 

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撮影・山崎 純敬 / SHIGAgrapher

執筆・矢島 絢子