滋賀をむすぶ

クリエイターが巡った滋賀をむすぶ旅。
これからの滋賀の魅力がたくさんあります。

相馬夕輝×服部滋樹 湖国のものづくりを巡る旅(第5回朝宮茶 かたぎ古香園)

日本の各都道府県のロングライフデザインを集めた「D&DEPARTMENT」代表取締役社長の相馬夕輝さんと、滋賀県ブランディングディレクターの服部滋樹さんが、滋賀の“良いデザイン“を探しに、地域に根づいたものづくりの現場を訪ねました。そのレポートを3回にわたってお届けします。 tumblr_noouzbNU5t1u31bh4o9_1280[1]

相馬夕輝プロフィール

1980年、滋賀県出身。D&DEPARTMENT PROJECT代表取締役社長。2003年同社に入社。「ロングライフデザイン」をテーマに地域らしさを見直し、これからのデザインのあり方を探るベースとして47都道府県に展開するショップ「D&DEPARTMENT」の大阪店、東京店の店長を経て、2009年から代表取締役社長に就任。そのほか、デザインの視点で日本を紹介する ガイドブック「d design travel」の発行など、幅広いデザイン活動を行う。

中国から日本へ。日本茶の発祥は滋賀

呼吸をするように自然に飲む一杯のお茶。毎日見る景色のように、暮らしの中にすっかり溶け込むお茶から、動作のひとつひとつが芸術的に高められた茶道まで。お茶にも色々あるけれど、とにかくお茶なしには日本の文化は語れない。 その伝来は、さかのぼること約1200年前。唐より伝わった茶の種子を播いたのが現在の滋賀県大津市坂本といわれている。そう、滋賀県は古よりお茶どころ。現在でも県内で10の産地を擁する。なかでも琵琶湖の南部、信楽盆地に位置する朝宮は香気に優れる高級煎茶の産地。歴史は古く、平安時代初期の僧、最澄が朝宮の岩谷山に茶の種子を播いたのがはじまりといわれており、五大銘茶として全国にその名を轟かせた。 冬に舞い戻ったような肌寒い春の日。私たちがまず訪れたのは、朝宮茶の「かたぎ古香園」。そんな歴史を背負っていることを微塵も感じさせず、気さくに迎えてくれたのは、片木隆友さん。さっそく宝瓶(ほうひん)でお茶を淹れてくれた。 tumblr_noouzbNU5t1u31bh4o1_1280[1] 「どうぞ」差し出された茶碗は、芽吹く新緑のように淡く清らかな山吹色で満たされていた。限定生産の「手づみ煎茶」だ。一口含むと、さりげない甘みと爽やかな苦みが口から喉を渡っていく。「ぜんぜん角がないんですね」と、服部さん。 お茶の栽培方法には、自然光の下で栽培する「露地栽培」と、寒冷紗という黒い布で自然光を遮って栽培する「被覆栽培」がある。光を制限することで渋みが少なく、旨味が増す。玉露やかぶせ茶、抹茶の原料となるてん茶は、こうして作られる。ところがかたぎ古香園では、収穫近くになっても茶木に寒冷紗を被せない。「被せないことで、渋みと甘さがバランスよく含まれる。それが朝宮茶のスタンダードですし、高級とされているゆえんです」と片木さん。 片木さんがおいしいお煎茶を淹れるコツを教えてくれた。「関西のお茶は基本的に茶葉が固いので、65℃くらいの温度でゆっくり時間をかけて出して飲んで頂くのが一番美味しいんです」。 tumblr_noouzbNU5t1u31bh4o2_1280[1] 緑茶は摘んだ茶葉を、蒸す→揉む→乾燥の手順で作られる。蒸し時間の長さで茶の味、香り、色が決まる。長く蒸すほどに葉は柔らかくなり、味はまろやかになると言われる。片木さんいはく「九州や静岡のように温暖な産地は、お茶の葉がごつくて浅蒸しだと良いお茶にならないんです。でも朝宮は極浅蒸し。これが昔からの製法だから、変わらないし、変える必要がないんです」。

山間の土地が育むお茶

こうした製法の違いには、朝宮の地形的な特徴があらわれている。朝宮は標高300~500m。日本全国の栽培地で気温が最も低く、特に一日の最高・最低気温の日較差が大きい。「新芽が伸びるこの時期は、よく霧が出ますよ」と片木さんはいう。天然のミストはやさしく茶葉を包む。特に香りが高評を博する朝宮のお茶は、こうして日々、しっとりと香気をまとっていく。 tumblr_noouzbNU5t1u31bh4o6_1280[1] またかたぎ古香園では、昭和50年から農薬不使用栽培に取り組んでいる。茶葉は野菜のように洗うことなく、そのまま口に含むもの。農薬を使っていいものか、という先代の葛藤から始まった。当時は農薬や除草剤を使うことに疑問を抱く人が少なかった時代。「無農薬栽培」は前衛的な栽培方法だった。 「最初の数年は害虫にやられてお茶が作れないこともあったそうです。 3年目でやっとお茶がとれるようになったそうです」。苦労の結晶は、実に輝かしい。かたぎ古香園のお茶は、県内や全国の品評会でも入賞を果たしている。 tumblr_noouzbNU5t1u31bh4o8_1280[1] 地形にまつわる、もう一つの利点がここでも見てとれる。「数年続けていると畑に抵抗がつくのか、害虫がついても増えない。朝宮は寒いから虫も越冬しづらいのかな。本当はこういう地形と気候の特徴を活かして地域全体で無農薬に取り組めたら良いんですけどね」と、片木さんはいう。

日本茶葉で紅茶。「ハーフのお茶」を!

地の利をあまねく享受する片木さんが次に淹れてくれたのは、在来種の日本茶葉でつくった「在来一番茶紅茶」。朝宮では茶葉の収穫を目前にした五月でも、遅霜が降りることが珍しくない。せっかく出てきた新芽に霜が当たると茶葉の成長が止まってしまう。また、新芽が少し大きくなってからも油断はできない。芽に霜にあたると、緑茶にしたときに赤みが入ってしまうのだ。とにかく収穫前の遅霜は天敵。 tumblr_noouzbNU5t1u31bh4o4_1280[1] 実はこれ、国産の無農薬の紅茶が飲みたいという消費者の声を受けて、10年前から作られている紅茶。と同時に、こうした霜の被害にあった茶葉でも活かせる秘策でもある。作付け面積が限られているため、店頭でしかお目にかかれない貴重なお茶だ。 逆転の発想ですけど、と前おきして服部さんが言った。「インドで紅茶を作ったら絶対に霜に当たったお茶なんてできないですよね。と考えると、霜が降りる気候を利用して、濃い紅茶を作ってみることもできるんじゃないですか。きっといいお茶になりますよ。ほら、あまーい香りがする」。 控えめな赤みのお茶を一口飲むと、納得。鼻腔が花の香りで満たされた。「農薬はもちろん肥料も使ってないんです。あまり自己主張しないお茶なんですよ」と片木さんが教えてくれた。 tumblr_noouzbNU5t1u31bh4o3_1280[1] 「実は以前から夢があるんです。日本茶の葉で紅茶を作りたいんです。そしたらジャパニーズ/ブリティッシュのハーフのお茶になるでしょ。ロゴのイメージも既にあるんですよ。…すごく商品開発したくなってきたな」。新製品へのアイデアがわき出して止まらない服部さんとともに、私たちはすぐそばにある茶畑を訪れた。

樹齢100年の古木が芽吹く。風情溢れる茶畑に

かたぎ古香園では全部で二町六反の茶畑を有している。私たちが訪れたのは 手摘みで芽を摘む畑。毎年5月の10日前後に一番茶を収穫し、その後番茶を穫り、7月に二番茶を穫る流れだ。畑には在来種を中心に全部で6種の茶の木が植っていて、限定品以外は茶葉をブレンドして製品にする。お茶の木は30年に1回は植え替えするのが一般的だそうだが、樹齢100年近くになるという古木もあちこちに見える。片木さんが「何としても残さなければ」というのも納得。根元をみれば、厳かに苔むして何とも風情のある足元をしている。 茶の木が長く続く理由は何ですか?と尋ねてみると「もともとお茶は強い木ですけどここは特に土がいいんでしょうね」と、答えは至ってシンプル。片木さんは畝と畝の間の草を指して「この子らも、もうすぐわっと大きくなるんです。もう毎日がひたすらに草取りなんですよ」と、言いながらもちっとも嫌がる様子もない。 草も茶木も自然をつくる一部。そんな大らかな愛で包まれた茶畑は長く続くのだろう。 tumblr_noouzbNU5t1u31bh4o5_1280[1] 「しんどくて、もうやめようかなって思いませんか?」と茶化して相馬さんが聞いた。「うちは自分で作ったお茶を自分の店で販売しているんで、飲んでくれる方の顔がわかるじゃないですか。それが楽しくて、やめようとは思わないですね」と片木さん。「茶摘みの時期はもうちょっと茶畑らしいんですよ」。その景色を見せたいのに、と言わんばかりに片木さんは呟いた。春の光を浴びて新芽が伸びるこの時期、片木さんの目にはきっと畑は毎日異なる顔をして映っているだろう。そして毎朝小さな感動とともに、せっせと草むしりをするのだろう。 「農業って人間が関わりながら景色をつくるじゃないですか。こうやって人がかかわって手入れをしている茶畑って、本当に美しいしここでしか成立しないですよね。お茶もきっと消費者の需要に応じて流行があるのでしょうけれど、山に囲まれた信楽だからこそ、流行に流されすぎず、浅蒸しのお茶が続けられたのかも」と相馬さんが言う。 tumblr_noouzbNU5t1u31bh4o7_1280[1] 相馬さんは付け加えた。「はじめての人には玉露やかぶせ茶など、お茶の違いがわからない人も多いですよね。でもお茶を食文化や生活道具と結びつけて話をすると、お茶がもっと楽しいものだとわかります。そもそもお茶のあれこれをゆっくり話す時間がお茶の本質のような気がします。でもこういう良さは、国道の横にあるお土産物店に並んでいるとなかなか伝わらない。こうした一連の流れを体験できる場があったらいいですよね」。 厳しい環境でゆっくり育ったお茶を、ゆっくりと淹れる。いつでも喉を潤してくれるペットボトル全盛期のいま、片木さんが変わらずに伝えていきたいのは、相馬さんが言うように手間ひまかけたお茶をめぐる物語。 「水さえ流れれば、川はできますよ」と服部さんは笑った。「じゃあ、がんばって水を作りましょうか」。片木さんも茶目っ気たっぷりに応じた。 (文章=ヘメンディンガー綾/写真=成田舞) 「相馬夕輝×服部滋樹 湖国のものづくりを巡る旅」。 次回はお茶に欠かせない焼き物の里、 信楽にある「ヤマタツ陶業」を訪れます。 茶陶から大物の火鉢や傘立てまで。 時代とともに変遷し続ける信楽で、 若き陶工の新たな取り組みをご紹介します。

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