紫式部が『源氏物語』の構想を練った石山寺へ

2022年7月7日(木)公開

紫式部が『源氏物語』の構想を練った石山寺へ

 

2024年に放送が予定されているNHK大河ドラマの主人公は、平安時代中期の文学者である紫式部。紫式部が書き上げた世界最古の長編小説とも称される、五十四帖に及ぶ『源氏物語』にも、今、注目が集まっています。その構想が生まれた場所と伝わるのが、滋賀県大津市にある石山寺です。同寺・広報担当の田中眞一さんに、石山寺の成り立ち、紫式部とのゆかりについて伺いました。また、歴史散策とあわせて楽しめる、石山寺の門前のグルメ情報も紹介します。

 

石山の上に建つ真言宗の大本山

 

『石光山(せっこうざん)』の山号を持つ石山寺は、琵琶湖から流れ出る瀬田川の西岸に広がる真言宗の大本山です。寺に伝わる『石山寺縁起絵巻(いしやまでらえんぎえまき)』によると、創建は天平19年(747年)。聖武天皇の勅願を受けて、奈良・東大寺の別当だった良弁僧正(ろうべんそうじょう)が草庵を結んだのが始まりと伝わります。

 

「聖武天皇から大仏建立に必要な黄金の調達を命じられた良弁僧正は、夢で告げられた石の上に天皇からお預かりした観音様を祀って祈願。すると、陸奥の国で黄金が発見されました。これで東大寺に大仏が建立できると、観音様を移動させようとしたところ、岩から離れなかったため、草庵を結び寺院にしたと言われています」(田中さん)

 

石山寺の起源にまつわる伝説

境内は、国の天然記念物に指定されている硅灰石(けいかいせき)の上に位置している。石山寺の名は、「石の山の寺」の意に由来するとか。

 

平安時代、貴族や文学者の人気を集めた石山詣

 

石山寺は、創建以降、東大寺の大仏建立を祈願した神聖な地として、多くの信仰を集めてきました。また、真言密教の道場、学問の寺としても名を馳せ、数多くの文学者がこの場所を訪れていたとか。

 

重要文化財の経蔵は、県下最古の校倉造(あぜくらづくり)の建造物。数多くの経典が納められた痕跡があり、学問の寺と呼ばれた由縁がここにも。

 

「平安時代当時は観音信仰が盛んで、西国観音霊場を巡拝し参籠(さんろう)する人々が増えていたそうです。貴族による〝石山詣〟も人気で、著名な女流文学者らも参詣していたとか。紫式部もその一人。平安時代、石山寺は京都の清水寺、奈良の長谷寺と並んで『三観音』のひとつといわれました。都に住む貴族たちにとって石山寺は、都からほどよい距離がある上に琵琶湖の風景も楽しめてリラックスできます。今で言うリフレッシュを兼ねた小旅行の趣があったのかもしれません。紫式部も源氏物語を起筆するにあたり、寛弘元年(1004年)、7日間に渡って、石山寺に参籠したと伝わります。」

 

本堂からは美しい木々が望まれる。都を離れた貴族や文学者もこの癒しの風景を見ていたのだろうか。

 

今も残る、紫式部が籠ったとされる『源氏の間』

 

紫式部が籠ったと伝わる『源氏の間』は、本堂の一角に往時の佇まいを残します。 「『石山寺縁起絵巻』には、天皇や皇族、高僧など、身分の高い人々が使う部屋として描かれています。正中(しょうちゅう)年間(1324~1326)に成立した詞書(ことばがき)には、鎌倉時代にはすでに『源氏の間』と呼ばれていたと記されています。源氏物語が着想され、後世に残る大作がこの場所で生まれました」(田中さん)

 

寛弘(かんこう)元年(1004年)の八月十五夜に紫式部が参籠。

式部ゆかりの歌を織り込んだ、石山寺限定の『紫式部 開運おみくじ』。

 

石山寺の月見から、源氏物語へと

 

「第十二帖『須磨』に、〝今宵は十五夜なりけりと思い出でて、殿上の御遊び恋しく――〟の一節があります。青年貴族が都から遠く離れた須磨で月を眺め、かつての暮らしを恋しく思うシーンは、紫式部が石山寺に参籠した際に構想し、そこから物語を書き始めたと伝えられています。石山寺は、月見の美しさでも知られており、紫式部も湖面に映る十五夜の月を眺めているうち、物語の情景がふと脳裏に浮かんだのかもしれません」(田中さん)

 

このように源氏物語には、石山寺を思わせるシーンや場面も登場します。物語を執筆した場所というだけでなく、石山寺から望む景色や風情からも数多くのインスピレーションを受けていたよう。

 

紫式部が注目を集める今こそ、源氏物語の世界にふれる石山寺散策を楽しんでみてはいかがでしょうか。

 

琵琶湖と瀬田川を望む月見亭は、後白河上皇(ごしらかわじょうこう)の行幸に際して建てられた。「紫式部もこの辺りから月を見ていたかもしれないですね」(田中さん)

 

石山寺参拝の前後にはグルメな門前めぐりも

 

歴史・文学のロマンが詰まった石山寺ですが、門前には、グルメスポットがにぎやかに並び、立ち寄り場所としても人気を集めています。今回は、たくさんある中から滋賀名物のグルメや甘味のお店、今年の春にオープンした複合施設など4軒をご紹介します。

 

 

和菓子と甘未 茶丈藤村

「たばしる」は、地元でも愛される石山寺名物

甘味処を併設する和菓子店。建物のしつらえと屋号は、かつて石山寺の密蔵院に数か月滞在した詩人・島崎藤村に因んでいます。代表銘菓は30年近く前から作り続ける、練りたての求肥餅で釜あげ丹波大納言とクルミを包む「たばしる(199円/個)」。店内では、「抹茶くず流し」などの甘味、滋賀羽二重糯米を使う「ふじおこわ」も味わえます。

 

■滋賀県大津市石山寺1-3-22

■077-533-3900

■9:00~18:00

■火曜休(祝日の場合は営業)

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淡味の膳処 洗心寮

瀬田川が一望できる、昭和2年創業の食事処

四季折々の眺望と共に楽しめる名物は、しじみ釜飯。創業以来の調理法を守り続けています。鯉や鮎といった滋賀の幸が並ぶ湖国料理、滋賀県産大豆で作られる比叡湯葉、日本三大和牛のひとつである近江牛のコースなども充実。鮒ずしや地酒、信楽焼など、滋賀県の特産品が並ぶ、お土産処も併設されています。

 

■滋賀県大津市石山寺3-1-9

■077-537-0066

■平日/10:00~16:00(L.O. 15:00) 

■土日祝/10:00~16:30(L.O. 15:30)

■宴会・会食/11:00〜21:00(要予約)

ホームページはこちら

 

 

石山テラス

令和4年4月オープン スイーツやパンを堪能できる複合施設

近江八幡市「高木牧場」の牛乳を使う各種プリンが人気の[石山寺プリン本舗(077-548-6300)]。焼き芋が名物の[石山寺のお芋スイーツ専門店 芋屋十三(077-548-6722)]。湯種製法で仕込む食パンの[焼き立てパン工房 ツキノベーカリー(077-548-6422)]。3つの専門店が並びます。夏頃には2階にカフェスペースがオープンする予定です。

 

■滋賀県大津市石山寺3-1-7

■11:00〜17:00(無くなり次第閉店)

■不定休

 

 

至誠庵湖舟

腕を磨いた兄弟が復活させた、炭火焼きうなぎ

注文を受けてから鰻を捌きはじめ、備長炭で焼き、滋賀県産醤油をベースに作るタレを絡め、近江米のご飯に乗せて提供されるうな丼やうな重が味わえます。これは、亡き父が得意とした料理を、大学で経営学を学んだ兄と京都や滋賀で修業した弟が2021年に復活させたメニュー。「うなぎを食べに石山寺に、と言ってもらえるよう」研鑽を重ねられています。また、店内には土産処も併設しており、佃煮や滋賀の食材を使ったオリジナルのお菓子を購入することができます。

 

■滋賀県大津市石山寺3-2-37 石山寺観光駐車場内

■077-537-0127

■土産処 10:00〜17:00

 昼   11:00~15:00  ※夜は要予約にて営業

■不定休

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