2024年06月24日(月)公開
盆や花器などの小さなものから、深さや大きさが異なる籠、重厚な文机に至るまで、多彩な形状と上品な光沢が持ち味の近江一閑張は、幅2センチの平たい紙ひもを編んで素地を作るところから始まります。
「ひもは重ねれば強度が出せますし、曲げたり、細く割いてらせん状に巻きつけて使うこともできます。その自在性が、さまざまな形の作品が生みだせる近江一閑張の特徴にもつながっています」。(亮太さん)
完成した素地に白い和紙を下張り。その後、色のついた和紙を重ね、柿渋などを塗って防水性を高める手法は、伝統的な一閑張とほぼ同じです。
「祖父は一閑張の修業をしたわけではなく、京都の山科で清水焼の人形を置く飾り台を作る仕事を長く続けていました。元来、手先が器用。50年ほど前のある日、米袋を縛る紙のひもで籠のような物を作り、紙を張ってみたと聞いています」。(亮太さん)
その後、試行錯誤を繰り返し、紙ひもの編み方に独自の工夫を加えるなど、次第に完成度を高め商品として販売するように。和紙も工夫を凝らした部分のひとつ。加賀藩への献上品として名高い和紙の里・富山県五箇山(ごかやま)に独自の色を別注しています。
「手漉きの和紙は繊維が長く、凹凸面にも馴染みやすいため、編み目の美しさを際立たせることができます。それを隙間なく張るのですが、難しいのは角の部分。底が深い籠などは指先の感覚を頼りに仕上げていくイメージです」。(亮太さん)
竹や木で作られた一閑張は曲げた部分から割れたりすることもあるようですが、柔軟性の高い紙のひもで作る近江一閑張が割れることはまずありません。また、和紙を張る際も、同じ紙同士なのでしっかり密着させることが可能です。
「デメリットは伝統とは離れる点ですね。2代目の父や私は経験ありませんが、祖父は“紙のひもで作る一閑張は偽物だと言われたことがしばしばあったそうです」。(亮太さん)
紙のひもや和紙をおもちゃがわりに育った亮太さんでしたが、若き日の夢はバイクレーサーだったとか。18歳で整備士の資格を取得。レーシングチームに入って活動を始めた矢先、鈴鹿サーキットでのレース中に転倒。生死の境をさまよいます。
「23歳の時でした。仕方なくレーサーは諦めて3代目の継承を決心。祖父と父を師と仰いで修業を始め、約10年が経ちました」。(亮太さん)
初代が湖南市に構えた工房では制作のみを行い、販売は百貨店の催事などを中心にしてきましたが、昨年6月に作業場を兼ねた店舗「近江一閑張 蔵 -KURA-」をオープン。映画やドラマのロケ地としても知られる近江八幡市の八幡堀沿いに建つ土蔵をリノベーションした趣ある空間には数多くの近江一閑張が並ぶほか、亮太さんが考案したモダンな箸やぐい吞みなども販売。箸置きを作って持ち帰ることができるワークショップも開いています。
「今の目標は、近江一閑張の魅力をもっと広めていくことです。そのためには、日々の暮らしに使える食器類のラインナップも増やしたい。インテリアとして飾れるアート作品に挑戦する準備も進めています」。(亮太さん)
近江一閑張 蔵-KURA-
■住所 滋賀県近江八幡市大杉町12 八幡堀 石畳の小路
■連絡先 090-8381-5788
■営業時間 10:00~17:30(12~2月は、17:00まで)
■定休日 火曜(不定休あり)
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