在来種から新品種まで、全7種のかぶを育てる

2025年1月14日(火)公開

 

 

 

山形県・長野県と共に日本三大かぶ王国に数えられる滋賀県。近江の伝統野菜全19種のうち、かぶが8種を占めています。その代表格は日野菜漬の原料として知られる「日野菜」と、約400年もの歴史をもつ「近江かぶ」ですが、年々変化する天候や消費者の嗜好に合わせた新品種も数多く栽培されています。そんなかぶを農薬や化学肥料を使わずに育てているのが、滋賀県高島市(たかしまし)の「みなくちファーム」。かぶ栽培を担当する瀬口結以(せぐち・ゆい)さんに、品種の特徴や農業への思いなどを伺いました。

 

 

 

 

環境への負荷が少ない
循環型農業を実施

 

全7種が植えられている「みなくちファーム」のかぶ畑。よく見ると品種によって葉の色や形、大きさが違うことがわかる。

 

 

多くの観光客が訪れるメタセコイア並木(高島市)のすぐ近くに農舎やカフェ・厩舎などを構える「みなくちファーム」は、地元出身の水口淳(みなくち・あつし)さんが平成26年(2014年)に開いた農園。原木シイタケとお米、約100種の野菜を育てています。

 

「オーナーは、自然豊かな里山で昔から営まれてきた環境への負荷が少ない循環型農業を実践したいとの思いから、藪のようになっていた耕作放棄地を自ら重機で開墾。里山を管理してクヌギの木を自伐し原木椎茸を育て、役目を終えた原木を堆肥にして野菜を育ててきました。現在、農作業は私を含む計4人のスタッフで行っています」。(瀬口さん)

 

瀬口さんは、かつて他県で医療や研究関係の仕事に従事。ヒトの命を見つめるなかで、ストレスのない健康な暮らしは食べ物からという思いに至り、地元である滋賀県に帰郷。新規就農者応援セミナーで水口氏と出会い、令和元年(2019年)に「みなくちファーム」の一員になりました。

 

「今、私たちが野菜を育てている畑は計36枚。マキノ町内に点在していて、面積もさまざまです。約10年前からかぶを育てている畑には大根、菜っ葉類なども植えています」。(瀬口さん)

 

 

リスクに備えて
色々な品種を植え付け

 

左から、黄色くて小さい「味こがね」、赤くて細長い「飛鳥あかね」、グラデーションが特徴の「あやめ雪」、近江の伝統野菜である「万木かぶ」、同じく伝統野菜の「日野菜」、茎の根元も赤い「桃寿」。

 

 

関西百名山の一つである赤坂山の麓に広がる畑で太陽をいっぱい浴び、葉を青々と広げるかぶは全7種。どの葉も似た形に見えますが、よく観察すると葉の色に濃淡があり、長さや形が微妙に異なることがわかります。

 

「有機JAS認証と滋賀県高島市の農産ブランド認証を取得している当ファームでは、農薬と化学肥料を使いません。安心・安全で美味しい野菜が提供できるメリットがある一方、虫害や気候変動を受けて収穫ができなくなる、収穫量が減る危険性も考えられます。万が一の事態にも対応できるよう、さまざまな品種を植えてリスクを軽減しています。化学肥料を使わないと野菜はゆっくり育ちます。そのために味が濃い野菜を栽培できていると自負しています」。(瀬口さん)

 

 

漬物に向く在来種に対して
新品種は生食用として人気

 

赤かぶと白かぶの良いところをミックスしたようなかぶと称される「万木かぶ」。

 

 

近江の伝統野菜である「日野菜」は細い大根のような形をしていますが、かぶの一種。茎の根元と根の上部が紅紫色をしています。茎は緑、根はあざやかな赤色をしている「万木(ゆるぎ)かぶ」は、高島市安曇川町(あどがわちょう)万木地区在来の品種。根の中は白色で、漬け物にすると全体に紅色が広がります。

 

「茎の根元が赤味を帯びているのは「桃寿(とうじゅ)」という名の新種です。近江聖人と讃えられた江戸時代初期の儒学者で、安曇川出身の中江藤樹(なかえ・とうじゅ)先生と読みが同じであることに縁を感じ、育ててみようと思いました」。(瀬口さん)

 

他にも、火を入れるとジャガイモのようなホクッとした食感になる黄色の「味こがね」、白と紫のグラデーションが美しい「あやめ雪」、甘くてやわらかい白かぶ「スワン」、奈良県の在来種である「飛鳥あかね」などを栽培しています。

 

「総じて、在来種は特有の苦みや辛味があり、歯ごたえもしっかりしているので漬物に向きます。一方、新品種は消費者の需要に応じて生食ができる、煮るととろける食感になる傾向があるように思います。調理法次第で味や食感、色合いが変わるところがかぶの魅力。「飛鳥あかね」、「あやめ雪」は塩炒めもおすすめで、火を通すと甘みが増します。葉もざく切りにして一緒に炒めます」。(瀬口さん)

 

令和6年(2024年)は気温がなかなか下がらなかったため、1回目に植え付けたかぶはほぼ全滅したそうですが、2回目以降の品種は順調。収穫は3月末ごろまで続きます。

 

「鮮度の良いかぶにはツヤがあります。表面がスベスベしているものを選ぶと、筋張ったかぶに当たる確率が低くなると思います」。(瀬口さん)

 

「みなくちファーム」では、かぶ畑の背後に見える赤坂山の麓の里山の中でシイタケを原木栽培している。ホダ木に使うのは、マキノ町内で自伐したクヌギ。役目を終えた後は堆肥化して野菜栽培に活用している。

 

 

瀬口さんたちが育てたかぶは、首都圏のレストランなどに出荷されているほか、高島市内の「道の駅 藤樹の里 あどがわ」、「道の駅マキノ追坂峠」、「マキノピックランド」、オンラインショップでも購入することができます。

 

みなくちファーム

■住所 滋賀県⾼島市マキノ町 蛭⼝1386-8

■連絡先 0740-20-1271

■オンラインショップはこちら  

■ホームページはこちら  

 

 

 

 

 

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