2023年3月7日(火)公開
日本には3316館の図書館が存在しますが、その99%以上が公立。私立はわずか19館にすぎません(*)。杉野文庫開設から5年後の1907年に歩みを始めた江北図書館は、国内に現存する私立図書館の中では3番目に古く、蔵書数は約5万冊を誇ります。
*2021年日本図書館協会「公共図書館集計」より
「この図書館はヤドカリのように本と本棚を抱えて、空き物件への移転を繰り返してきたんですよ」。( 久保寺さん)
杉野文庫時代から数えると4カ所目になる現在の木造モルタル2階建ては昭和12年(1937年)築。郡の農業団体の事務所として建てられました。時代を感じさせる引き戸を開けると、昔の学校を思わせるレトロな玄関が広がります。靴をスリッパに履き替え、少し軋む木の床を歩くと正面には受付。その左手に位置する明るい一室には絵本や児童書が並びます。
「大人は懐かしい本がたくさんあると仰いますし、子どもたちの目には新鮮に映るようです。たとえば一般的に、図鑑や解説書は出版から10年経過すると新版に入れ替えられる図書館が多い中、ここには40年前に出版された書籍がそのまま並んでいます。地図には東ドイツやソ連の国名が書かれ、建築関係の本にはソファや黒電話にレースのカヴァーをかけた写真が掲載されています。そんな書籍はここでしか手に取れないかもしれない。もちろん、図書館としては新しい情報をお届けする必要がありますが、当時の情報から昭和時代を知っていただけるのも、江北図書館の持ち味だと思っています」。(久保寺さん)
図書館が身近ではなかった時代、本を買うことが贅沢だった時代を経て、今はインターネットで幅広い情報が簡単に入手できる時代。図書館を取り巻く環境も激変しています。戦後間もない頃、滋賀県内の図書館は6館のみでしたが、1980年代以降は公立図書館が増加。近年は日本各地にエンターテイメント的な要素も兼ね備えた公立図書館が出現しています。
「私が江北図書館で司書兼学芸員をしていた頃、本を借りに来られる近隣商家の女性たちは、“家事や子育ての合間に本を読むと自分とは違う人生を生きたような気になれたり、旅行をした気分に浸れる”と話してくれました。そんな役割も果たしてきた、地域の歴史でもある図書館を守り続けたいと思っています」。(久保寺さん)
2021年、久保寺さんと同じ思いを抱く内装業社長、元市役所職員、移住者たちが理事会入り。出版やウェブなど、それぞれの得意分野を生かした取組を行う新体制がスタートしました。その積極的な姿勢が評価され、2022年12月には「第4回 野間出版文化賞特別賞」を受賞。図書館を次世代につなぐ活動の追い風になっています。
「多くの公立図書館では、貸出を地域住民に限定していますが、江北図書館は旅行者であっても連絡先を明示してもらえるなら貸出可能。郵送による返却も受けています。他にも古本市やおはなし会、コンサートなど、私設だからこそできる企画を発信していきたいと思っています」。(久保寺さん)
江北図書館は、2023年3月10日(金)まで、クラウドファンディングに挑戦中。集まった資金は、閲覧室と水洗トイレを備えた簡易的な別棟を建てる費用に充てられます。これは、将来的に耐震化などの本格的な修復を実施するための布石。その過程を経て、現在の建物を登録有形文化財に登録したいと久保寺さんたちは考えています。
「そもそも江北図書館は地域の方たちに支えられてきました。先日も、クラウドファンディングを報じる新聞やニュースを見て私たちの挑戦を知ったという高齢のご婦人が来館。雨の寒い日でしたが、クラウドファンディングのやり方はわからないけど寄付がしたいと、わざわざバスに乗って来られたこと、握りしめたお札を託してくださったことに胸が熱くなりました。これもクラウドファンディング効果のひとつ。励みになっています」。(久保寺さん)
江北図書館
■場所 滋賀県長浜市木之本町木之本1362
■問合せ 0749-82-4867
■ホームページはこちら
■開館時間 10:00~16:00(火~土曜)、10:00~14:00(第2・第4・第5日曜)
■休館日 月曜、第1・第3日曜日、祝日