2024年10月11日(金)公開
標高848mの比叡山。古事記には淡海(おうみ)の日枝(ひえ)の山として記されていて、長く山岳信仰の対象とされてきました。そんな比叡山を仏道修行の場と定めた最澄は延暦7年(788年)に草庵を結び、天台宗を開創しました。
一方、眼下に琵琶湖を望む比良山地の最高峰は標高1214mの武奈ヶ岳(ぶながたけ)。その地形は変化に富んでいて、名瀑や湿地、池が点在。ミズナラやブナなどの樹木で覆われた森林にはゆたかな生態系が息づいていて、訪れる者を楽しませます。
歴史と文化、大自然に彩られた魅力に満ちたロングトレイルを国内外に発信し、地域の活性化を図るためのルート整備や活動を展開しているのが、平成29年(2017年)に設立された「比良比叡トレイル協議会」です。約50㎞のルートを7つにエリア分けして、ホームページ上にガイド文を掲載。トレイルマップの作成・販売も行っています。
比良比叡の山々は古来より多くの人々の心を動かしてきました。近江八景の一つ「比良の暮雪」で知られる景勝地もそのひとつ。近江をこよなく愛したと伝わる松尾芭蕉も「比良三上雪指(さ)しわたせ鷺の橋」の句を詠んでいます。
比叡山全域を境内とする延暦寺はユネスコ世界文化遺産にも登録されていて、多くの名僧が修行したことから日本仏教の母山とも言われています。地球1周分に相当する約4万㎞を7年かけて歩く、天台宗の修行である「千日回峰行」と同じ道を辿ることができるのも、比良比叡トレイルの魅力のひとつです。
◆歩行距離/約14㎞ 所要時間/約6時間
◆京阪松ノ馬場駅▶︎無動寺坂▶︎明王堂▶︎根本中堂▶︎浄土院▶︎釈迦堂▶︎峰道▶︎玉体杉▶︎横川
京阪電鉄の石山坂本線「松ノ馬場」駅を起点に無動寺坂を上り、千日回峰行の出発地点である明王堂を目指します。夜明け前に足早で歩く過酷な修行に思いを巡らせつつ、根本中堂のある東塔から西搭へ。江戸時代に再建された浄土院が佇む静かな道を過ぎると、釈迦堂から横川エリアに続くルートは本格的なトレイル。途中には琵琶湖が一望できるビューポイントもあります。
◆歩行距離/約14㎞ 所要時間/約6時間
◆JR堅田駅▶︎還来(もどろき)神社▶︎上龍華(かみりゅうげ)▶︎権現山▶︎小女郎(こじょろう)峠▶︎小女郎池(往復) ▶︎蓬莱山(ほうらいさん)▶︎打見山(うちみやま)▶︎キタダカ道▶︎木戸▶︎JR志賀駅
第1ポイントの還来神社は「必ず無事に還れる」の御神徳から旅の安全を祈願する人が多く訪れる古社。上龍華の集落から林道に入り、権現山まではアップダウンを繰り返します。標高996mの山頂に着くと急に視界が開け、琵琶湖が一望できます。その先は快適なトレイルコース。蓬莱山にかけてなだらかな勾配のある稜線を進みます。打見山はびわ湖バレイのゲレンデで、山頂に位置する人気スポット「びわ湖テラス」からは比良山地の最高峰である武奈ヶ岳も遠望することができます。
比良比叡トレイルルートには、スギやヒノキの林、コナラやミズナラの森が点在。春は、八重を中心とした約40種のサクラが山を彩ります。初夏にかけては、比叡山の名がついたエイザンスミレ(春)を始め、カキノハグサ(春)・キバナサバノオ(春)・イワカガミ(春~初夏)・シャクナゲ(晩春)・バイカオウレン(晩春~初夏)・シロヤシオ(初夏)・サラサドウダン(初夏)などの可憐な花々が咲き乱れます。
秋が近づくと見られるようになるのは草花。ツリフネソウ(夏~秋)・トリカブト(秋)・アキチョウジ(秋)・イヌコウジュ(秋)・ミカエリソウ(秋)・アキノキリンソウ(晩夏~晩秋)・アキノノゲシ(夏~晩秋)・シロヨメナ(夏~晩秋)。キク科の花も多く見られます。
晩秋は紅葉。雪が降る冬の美しさも格別で、樹氷が見られることもあります。
ただ、近年は春に咲くカキノハグサやエイザンスミレ、キバナサバノオ、秋のミカエリソウなどを見る機会が減っているとの情報も。「比良比叡トレイル協議会」では、その背景に地球温暖化や獣害などもあると考えつつ課題としてとらえるため、比叡山で近年見かけない植物を探して植物分布図を作る「市民参加の自然観察会」なども開催しています。
■住所 滋賀県大津市浜大津四丁目1番1号 大津市市民活動センター内
■問い合わせ info@hirahiei.com