未開の山林を畑に。豊かに実ったブドウで手造りされるシャトーワイン

2024年11月1日(金)公開

 

 

 

JR栗東駅から車で15分ほど走った浅柄野(あさがらの)地区に広がる丘陵地に位置する栗東ワイナリーでは、ワイン用のブドウを有機農法で栽培。畑が一望できる白亜のシャトー内で、搾汁から瓶詰に至るまでの全工程を行っています。戦後まもなく同ワイナリーを始めたのは「清酒 道灌(どうかん)」で知られる太田酒造(草津市)。日本酒の蔵元がワイン造りを始めた経緯などを工場長の西村直樹(にしむら・なおき)さんに伺いました。  

 

 

 

 

天地返しの大工事を行い

理想的なブドウ畑に

 

栗東ワイナリーでは、ヨーロッパなどで多く見かける垣根仕立て(写真手前)と、日本で一般的な、多くの収量が見込める棚仕立て(写真奥の方)、2通りの方法でブドウを栽培している。

 

江戸城を築いたことで知られる武将・太田道灌(おおた・どうかん)を祖に持つ太田家は、徳川三代将軍家光の命を受けて滋賀県の草津に領地替え。関所を守る役目を拝命していましたが、明治4年(1871年)の廃藩置県を受けて清酒造りを始めました。そんな由緒ある蔵元がワインを造るきっかけになったのは、第二次世界大戦中の食糧難を改善するために始めた、久邇宮家(くにのみやけ)が持っておられた山林の開墾でした。

 

「その途中、不思議な話なのですが、ワイン造りが兵器製造に役立つからと、当時の大蔵省(現・財務省)が日本各地の蔵元などにワイン醸造の大号令をかけました。そこで先代たちはブドウを植え始めたそうです。」。(西村さん)

 

ワイン液や絞りかすから精製できるロッシェル塩という物質が持つ音波を捉える特性を生かして、ドイツが音波防御レーダーを開発。艦船に装備して効果を出していたことから、酒類行政を取り扱う大蔵省はワイン造りを奨励。昭和19年(1944年)度の果実酒課税石数は約1301万Lだったのに対して、翌年度は約3420万Lと2.6倍もの数字になったことからも、多くのメーカーがワイン造りに勤しんだ様子が想像できます。

 

「しかし、そうこうするうち敗戦。開拓した土地は農地改革の対象になったため、国に返還します。ただ、先代は食料不足の世の中に米で日本酒を造るのはもったいないと考え、ブドウからワインを作ろうと思い立ちます。再び、久邇宮家にお願いして土地を譲り受けたそうです」。(西村さん)

 

終戦から4年経った昭和24年(1949年)、ワイン造りに向けての動きが本格化。山梨県から招いた技術者の指導を受けながら、“天地返し”と呼ばれる土地の掘り起こしをツルハシやクワで行い、地下に水路を埋設してブドウが好む水はけの良い土地への改良が進められました。

 

※参考サイトはこちら

 

 

 

 

全11種のブドウを栽培

酸を残すことがポイントに

 

 

ひと房ごとに紙製の傘が掛けられているレッドミルレンニュームは生食も可能だが、実の中には大きなタネがある。「それも生食用とは違う点です。ワインを仕込むにはタネは必須ですが、生食用はタネなしが人気ですからね」。(西村さん)

 

ブドウ畑の総面積は約5ha。日本ではめずらしいレッドミルレンニューム、日本交雑種のマスカットベリーA、山ブドウとカベルネソービニヨンを交配させたヤマ・ソーヴィニヨンなど、全11種のワイン用ブドウを有機栽培しています。

 

「平成21年までは観光農園としても営業していましたので、生食用のブドウも育てていました。しかし、酸を残さなければならないワイン用ブドウと、甘さが求められる生食用は育て方が根本的に異なります。社長の決断で、観光営業を終えてからはワイン用だけに注力しています」。(西村さん)

 

単一品種で作る浅柄野シリーズ。左から、マスカットベリーA、レッドミルレンニューム、同じくレッドミルレンニュームの辛口。

 

自社畑産100%単一品種のワインは、シャトーが建つ地区の名称である「浅柄野」を付与したブランドネームに統一。赤・白あわせて14種を製造。栗東のテロワールが感じられるワインとして、愛好家からも高い評価を受けています。県外産のブドウをブレンドして幅広いテイストに仕上げる「Biwa」シリーズのほか、リキュールやブランデーも同じ敷地内で仕込んでいます。

 

「平成23年(2011年)に新築したシャトーは、1階が醸造所と熟成庫。2階が売店とティスティングルーム、中2階が見学スペースになっています」。(西村さん)

 

太陽が燦々と差し込むティスティングルームからはブドウ畑は見渡せます。10人程度までのグループなら、醸造所の見学も可能です。

(※要予約、時期は要相談)

 

フレンチオークの樽が並ぶ熟成庫。春から秋は13度にキープ、冬は外気温と同レベルでじっくり熟成させる。

 

 

 

 

栗東にワイナリーがあることを

多くの人に知ってほしい

 

平成23年に完成した、ブドウ畑を望む白亜のシャトー。

 

「当ワイナリーの畑は日当たりが良く、昼夜の寒暖差が大きいため、ブドウの栽培に適しています。しかし、近年は夏の暑さが尋常ではないため、直射日光を防ぐ為と雨対策も兼ねてひと房ひと房に紙製の傘をかけます。夜の気温が下がらない日などもあるし、雨が続くと病気にもなりやすい。今後は、気候の変化に対応できる品種の選抜もしていかねばならないと感じています」。(西村さん)

 

除草剤不使用。害虫は手作業で取り除く。まるで我が子のように愛情を注いで育てるブドウがたわわに実る様子は圧巻です。

 

「滋賀県の栗東に、美味しいワインを造るワイナリーがあることを多くの方に知っていただきたい。その為にも生産量を上げる、販売する場所を増やすなどの努力をしていきたいと思っています」。(西村さん)

 

 

 

 

栗東ワイナリー

■住所 滋賀県栗東市荒張1507-1

■連絡先 077-558-1406

■営業時間 9:00~17:00

■定休日 不定休、11~1月(期間中も見学可能な日はあるので、本社売店077-562-1105に問い合わせを)

ホームページはこちら

 

 

 

 

 

 

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