滋賀に移住した8人が田舎をサバイブ!?

2023年3月31日(金)公開

 

滋賀県長浜市。古い宿場町の趣を残すこの街に移住してきた8人の女性たちがいます。出身地も年齢もさまざま。偶然の出会いから集まった8人は「イカハッチンプロダクション」の名で、雑誌『サバイブユートピア』の企画・編集を行っています。イカハッチン結成のきっかけ、雑誌づくりのことなどをうかがいました。

 

 

木之本で活動中「イカハッチンプロダクション」

 

画像:イカハッチンプロダクション提供
長浜市木之本町にあるヘアサロン前で。左から歴史文化の振興に携わる合同会社nagori代表の對馬佳菜子(つしまかなこ)さん、ファッションクリエイターのワタナベユカリさん、写真家の浅井千穂(あさいちほ)さん、ヨガ講師・ライターのMUSTUMI(むつみ)さん、ルポ&イラストレーターの松浦すみれ(まつうらすみれ)さん、カフェと日用品コマイテイ店主の荒井恵梨子(あらいえりこ)さん、出版社能美舎・丘峰喫茶店代表の堀江昌史(ほりえまさみ)さん、長浜市地域おこし協力隊兼ライター・編集者の船崎桜(ふなざきさくら)さん。

「イカハッチンプロダクション」は、長浜市に移住してきた女性8人が立ち上げた編集プロダクションで、年1回、3月3日に雑誌『サバイブユートピア』を発行しています。このユニークなユニット名は、主な活動拠点の旧伊香郡の“イカ”と、琵琶湖の特徴的な魚介類である “琵琶湖八珍(びわこはっちん)”に由来するのだそう。
出身地、年齢、職業、家族構成もさまざまな8人。大学進学で滋賀へ来た人、仕事で長浜に居を構えた人、結婚を機に移住してきた人など、移住の理由も居住歴もバラバラ。お互いの存在を知りつつも、あまり接点はなかったメンバーたちが活動するきっかけを聞くと—。

 

日本酒愛が高じて移住して約6年の松浦さん。日本酒に精通し、蔵元を取材したイラストエッセーも出版。現在は京都府、滋賀県・木之本町、甲賀市の3拠点生活中。

「コミュニティができている街において、移住者というのはちょっと目立つ存在でもありました。そんなとき、イカハッチンのメンバーであるワタナベユカリさんが木之本町内にある山路酒造さんでの奈良漬ワークショップに誘ってくれたことが始まりです」。(松浦すみれさん)

 

そこに参加したのが、現在のイカハッチンメンバーのうち、ファッションクリエイターのワタナベさん、イラストレーターでありライターの松浦すみれさん、元新聞記者で出版社を運営する堀江昌史さん、ヨガインストラクター兼ライターのMUTSUMIさんの4人。

 

「夏に水ばたでウリを洗っているときに、話をしていたのですが、やりたいことや年代が近かったこともあって、これまでの移住生活の悩みや葛藤など、それぞれが抱えてきた思いがブワ〜ッと溢れ出てきたんです」。(松浦さん)

 

令和2年(2020年)に移住し、現在は第一子を妊娠中のMUTSUMIさん。「大阪で暮らしていたときは、マンションの隣の人すら知らなかった。ここでは、顔を知っている人や近所付き合いをしている人が多い。家族が増えたような感じ。ここで子育てをするのが楽しみ」。

「『何かやりたいね』と一気に話が盛り上がり、雑誌を作ることが決定したのが令和3年(2021年)の夏。『あの子はどう? あの子なら私、知っているよ!』と、それぞれが存在を認識はしていたけれど、直接的な繋がりがなかった8人が集められ、イカハッチンプロダクションが結成されました」。(MUTSUMIさん)

 

 

都会にいなくてもカッコイイことはできる

 

雑誌を発行するにあたり、集まったメンバーたち。編集会議では、“あんなこと、こんなことがしたい”と議論が白熱しました。そして、雑誌の名前は『サバイブユートピア』に決定。

 

個性的なデザインの表紙が目をひくと話題のサバイブユートピア創刊号(右)。サバイブユートピアvol.2(左)は、「嫁」がテーマ。ここで暮らす「嫁」もかつては「移住者」だったという気づきから、移住者の先輩たちを交えて、率直な思いが綴られています。

「田舎(ユートピア)に移住したオンナたちの日常(サバイブ)がテーマです。田舎への移住は良いことだけでなく、大変なことも。それも含めて、この土地で生き抜く。そんな思いをタイトルにしています」。(對馬さん)

 

15歳で仏像を好きになったという對馬さん。湖北の観音文化とりわけ人と仏像の関わり合いに魅了されて長浜市へ移住。長浜市地域おこし協力隊OG。

雑誌の内容は、移住生活の実態や本音だけではなく、8人の好きなことを各自の視点で記事にしたもの。写真家の浅井さんは湖北で暮らす女性のフォト&インタビューを、“観音ガール”の愛称で仏像を取り巻く信仰文化の研究をする對馬さんは仏像や信仰文化に関する記事など、それぞれの得意なこと、興味のあることが特集として並びます。

 

新聞記者や企業のPRを経験した後、コロナ禍の令和3年(2021年)に東京から木之本町の山間の集落・大見に夫と移住。「のびのびと過ごせる場所を探してここへ」と話す船崎さん。

「長浜へ移住することは決まっていたので、ここに根を張るつもりでイカハッチンプロダクションに参加しました。いわゆる過疎地域と呼ばれる場所に、バリバリと仕事をできる女性たちがいる。この人たちのことを世に知ってほしいと思いました。都会にいないとカッコイイことができないという概念を変えていけるメンバーだと思うんです」。(船崎さん)

 

對馬さんは県内の大学生からこんな声をかけられたそう。

「『おもしろいことをやっている人たちが自分の地元でいて、楽しそうだなって思いました!』って。雑誌を見て、この街が楽しそうだと感じてもらえたことがうれしいです」と話します。

 

取材には同席できなかったメンバーも「私たちが好きなことをする姿を見て、田舎にいてもやりたいことをやる選択肢があるんだと感じてもらえたら」と創刊号の座談会に言葉を残しています。

 

 

意外!? 地元での反響の大きさ

 

移住者が企画・制作した雑誌でありながら、移住生活のノウハウや暮らしぶりを紹介するのではなく、とにかく8人の好きなことをぎゅっと盛り込んだ創刊号。移住先でも好きなことで楽しんでいる様子を記事にしたところ、地元から予想外の反響を得ます。

「木之本は、古くは宿場町として栄えた場所。人の往来に慣れた方も多く、移住者も比較的過ごしやすい地域」とメンバーのみなさん。

「地元に向けてというより、全国に向けての雑誌でした。ところが、地元のお嫁さんたちが編集後記のメンバー座談会を読んで、とても共感してくださったんです」。(松浦さん)

 

というのも、木之本町周辺で暮らす女性は、他所からこの地に嫁いできた方も多く、いわば移住の先輩たち。メンバーが好きなことを貫く姿を見て、同じ女性として、ライフイベントにおける苦労や、生きづらさなどにも心を寄せてくださったとか。

 

この3月に発行された2号目では、特集を「嫁」と題し、市内で暮らす女性たちの座談会などを通して、世代をこえて、移住者でもある〝嫁〟を考察しています。

 

 

サバイブユートピアや湖北のことを知ってほしい

 

 

雑誌の発行以外にも、今後やってみたいことがたくさんあるとか。

 

「木之本は本の街でもあり、県内外の方を集めて文芸フェスをやってみたいなぁ」。(對馬さん)

 

「長浜市外や滋賀県外にも飛び出して、サバイブユートピアや湖北のことをたくさんの人に知ってもらえるイベントもやりたいですね」。(船崎さん)

 

「私たちは、みんなバラバラで雰囲気も違うし、共通点ってなんだろうって思っていたんです。でも、みんな自分の意見をちゃんと言う。意思を持ってアクションすることができる人ばかり。これからのイカハッチンが楽しみ」。(MUTSUMIさん)

 

「田舎で自分たちが楽しく生きるために」を形にしたイカハッチンプロダクションの活動。地域にとけ込みながら、移住の新しい風やムーブメントを生み出しつつあります。

 

■イカハッチンプロダクション

※サバイブユートピアは、書店のほか、オンラインでも販売中。
■イカハッチン商店

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