滋賀・長浜の歴史と信仰を感じる観音めぐり

2023年6月30日(金)公開

 

滋賀県北部に位置する長浜市。多くの観音像が点在し、「観音の里」とも呼ばれているこのまちでは、古くからこの地ならではの仏教文化が根付いています。なかには平安時代につくられたものも多く、地元の人々によって大切に守られてきました。今回は、貴重な観音像が残る5つの寺院を紹介します。

 

※ご本尊はすべて撮影不可です。拝観のルールを守って鑑賞をお楽しみください。

 

病い除けの観音様として信仰されてきた

国宝・十一面観世音菩薩立像

①渡岸寺観音堂(向源寺)(どうがんじかんのんどう こうげんじ)

 

 

天平8年(736年)、平城京で疱瘡(ほうそう)が大流行し、死者が相次ぎました。その様子に心を痛めた聖武天皇が僧の泰澄(たいちょう)に命じ、祈りをこめて刻ませたのが、ここに安置されている十一面観世音菩薩立像だといわれています。以来、病い除けの観音様として人々に信仰されてきました。元亀元年(1570年)の浅井・朝倉連合軍と織田・徳川連合軍が戦った姉川の戦いで寺は全焼してしまいましたが、地域の人たちが観音様を運び出し、土に埋めて守ったと伝わります。

 

十一面観世音菩薩立像は、頭上の宝髻(ほうけい)がそれぞれ高く表されていることや、両耳に大きな鼓銅(こどう)式の飾りをつけているのが特徴です。明治21年(1888年)に宮内省全国宝物取調局が調査に訪れ、この像を日本屈指の観音像と高く評価。明治30年(1897年)に特別国宝に指定されました。

 

■場所  滋賀県長浜市高月町渡岸寺50
■拝観時間 9:00~17:00(12月~2月は16:00まで)
■休日 無
■拝観料 500円
■問合せ TEL.0749-85-2632(国宝維持保存協賛会)

 

 

石道村の女性がモデルと伝わる

十一面観音菩薩立像

②石道寺(しゃくどうじ)

 

 

古くから霊山として信仰されてきた己高山(こだかみやま)。その麓に位置し、うっそうとした木々のなかにひっそりと佇むのが真言宗豊山派の石道寺です。本堂には重要文化財の十一面観音菩薩立像や多聞天立像、持国天立像などが安置されています。石道寺は、神亀(じんき)3年(728年)延法上人によってこの近くの山間で開かれた後、荒廃してしまいますが、延暦23年(804年)に最澄が十一面観音を祀って再興したとされています。


平安時代の中頃、最澄によって彫られたという十一面観音像。モデルは石道の村の女性と伝わり、ふっくらとした頬に、やさしく穏やかな表情、そしてなめらかな体の曲線の美しさが印象的です。唇や衣服に赤色が残っていることから、当時は色鮮やかな観音像であったことがうかがえます。

 

■場所  滋賀県長浜市木之本町石道419
■拝観時間 土・日曜、祝日のみの9:00~16:00(11月は毎日拝観実施、12月末~2月末は休み)
■休日 月~金曜
■拝観料 300円
■問合せ TEL.0749-82-3730 ※土日祝のみ

 

 

行基が巡教のために訪れた寺に残る

18本の手をもつ千手観音像

③霊応山 黒田観音寺(れいおうざん くろだかんのんじ)

 

 

JR木ノ本駅から約2キロの場所に位置する霊応山 黒田観音寺。奈良時代の僧・行基が巡教のためにこの地を訪れたとき、自ら千手観音像を彫り、お堂を建立して寺号を三縁山(さんえんざん)観音寺としたのが始まりだとされています。その後何度も火災に遭い、廃寺同様になっていましたが、臨済宗の僧が見事な観音像の美しさに驚き、寺を修復したと伝わります。
ふっくらとした頬に、引き締まった口元。千手観音像は、厳しさのなかにやさしさも感じられます。それぞれの手には宝剣や宝瓶、宝珠などを持ち、指先の動きにも違いが見られます。また手が18本あるという特徴から、准胝観音(じゅんていかんのん)像とする見方もあります。

 

■場所 滋賀県長浜市木之本町黒田大沢1811
■拝観時間 9:00~16:00
■休日 月曜 ※1月~3月初め頃まで冬季休み
■拝観料 500円
■問合せ TEL.0749-53-4133(長浜観光協会北部事務所内)
※要事前予約

 

 

災い転じて利益を授ける

“転利(コロリ)観音”

④唐喜山 赤後寺(からきさん しゃくごじ)

 

 

長浜市の湧出山(ゆるぎやま)中腹に建つ、赤後寺。現在のお堂は明暦4年(1658年)の建立と伝わる歴史ある建物です。かつては足利尊氏から荘園100石を寄進されるほど栄えていましたが、現在はお堂を残すのみとなっています。
行基作と伝わる千手観音立像は、もともと42本の手がありましたが、戦火を避けるため川に何度も沈められ、その間に12本を残すのみに。また最澄の作とされる聖観音立像も同様、多くの戦から逃れて光背(こうはい)や宝冠(ほうかん)などが失われています。
これらの観音像は災いを転じて利益を授けるという「転利(ころり)観音」の名でも親しまれ、3回参拝すれば極楽往生できるとされています。毎年7月10日には、1000日分の参拝と同じ功徳があるという千日会(せんにちえ)が開かれ、全国から多くの人々が訪れます。

 

■場所 滋賀県長浜市高月町唐川1055
■拝観時間 9:00~16:00
■休日 無
■拝観料 500円
■問合せ TEL.090-3164-7486

 

 

最澄作と伝わる十一面観音菩薩立像など

どっしりとした佇まいに圧倒

⑤西野薬師堂(にしのやくしどう)

 

十一面観音立像

薬師如来像

 

天台宗の泉明寺(せんみょうじ)と呼ばれた大寺院が前身の西野薬師堂。度重なる戦乱で荒廃し、観音像は地域住民の手によってこれまで大切に守られてきました。最澄が彫刻し、納めたとされる十一面観音菩薩立像は、ふっくらとした頬に、やさしげな顔立ちが印象的。どっしりとした佇まいが存在感を放っています。左手には水瓶(すいびょう)を持ち、右足をやや曲げて立っていることがわかります。同じく最澄が納めた薬師如来像は、その象徴である薬壺(やっこ)を持っていないという特徴が。
いずれも平安中期の作ですが、近世にはかなり損傷が激しかったようで、それぞれ像の底がヒノキ材によって継ぎ足されていたり、体の部分が江戸時代の漆箔で覆われているなどの補修が見られます。多くの時代を乗り越えてきた観音像に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。

 

■場所 滋賀県長浜市高月町西野1696
■拝観時間 9:00~16:00
■休日 休日 月・火曜 ※12~3月は休み
■拝観料 500円 
■問合せ TEL.090-8938-6369
※拝観は事前予約

 

参考:
『国寶十一面観世音 渡岸寺観音堂(向源寺)』(渡岸寺観音堂(向源寺))
『重文観世音菩薩略記』(霊応山 黒田観音寺)
『薬師如来 十一面観音』(西野薬師堂)
長浜市長浜城歴史博物館 企画・編集『湖北の観音—信仰文化の底流をさぐる—』サンライズ出版、2012年(西野薬師堂)
長浜市・東京藝術大学大学美術館 企画、長浜市長浜城歴史博物館 編集『びわ湖・長浜のホトケたちⅡ』長浜市、2016年(西野薬師堂)

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