おいしくて、環境に優しい近江米の新品種「きらみずき」

2023年9月12日(火)公開

 

全国有数の米どころである滋賀県で、10年ぶりとなる近江米の新品種「きらみずき」が誕生しました。2009年に滋賀県農業技術振興センターでスタートした新品種開発。13年の歳月を経て今年「きらみずき」がデビューします。さらに、今年収穫分の新米は「新嘗祭(にいなめさい)(*)」に献上されることも決定。そんな「きらみずき」を栽培する榮(さかえ)農場の中井榮夫(なかい・しげお)さんに同農場の米づくりのこだわりや、献上米を栽培する思いをうかがいました。

(*)新嘗祭:宮中祭祀のひとつで、神様にその年に収穫された新穀を供えて感謝の奉告を行う祭礼。これらの供え物を神からの賜りものとして天皇自ら召し上がる儀式。

 

 

農家からの要望が強かった

収穫時期が遅い「中晩生(ちゅうばんせい)」品種 を開発

 

中晩生の品種のため8月初旬の取材時は実り始めたばかり。青々とした稲が美しい頃でした。

「きらみずき」は、 “中晩生”で、収穫時期が9月中旬とコシヒカリよりも半月ほど遅いことが特徴です。滋賀県内で栽培の多い早生品種の収穫時期が8月末〜9月頭に集中し、専業農家の作業負担が非常に大きかったことや中生熟期の品種では、台風や長雨の遭遇、高温の影響による収量や品質低下が増えていたことから、滋賀県農業技術振興センターでは、中晩生品種の開発に取り組んできました。
また、環境にこだわった栽培方法を追求していることも「きらみずき」の大きな特徴です。有機質肥料の使用、減農薬を掲げ、環境に負荷を与えない栽培においても味や香りの良い米に育つように、改良を重ねてきました。

 

 

全国でトップクラスの厳しい基準

滋賀の環境に配慮した米づくりとは

 

栗東市で「きらみずき」を栽培している榮農場の中井榮夫さんは、代々続く農家の家に生まれました。

 

榮農場代表の中井榮夫さん。農業を専業とする “プロ農家”として、米と米の加工品作りに従事しています。

「江戸時代中期からの資料しか残っておらず、農家としての発祥がいつからなのか定かではないのですが、私で33代目と聞いています。戦後の農地改革以降、作付面積を増やし、約2ヘクタールの田んぼを預かることに。今は、栗東市と守山市に30ヘクタールの田んぼがあり、コシヒカリ、ヒノヒカリ、日本晴など、ほ場ごとに違う品種の米を栽培しています」。(中井さん)

 

榮農場の米づくりのこだわりは、農薬と化学肥料をできる限り使用しない栽培方法です。滋賀県の“環境こだわり農産物”の基準よりもさらに厳しく、環境と人に優しい米づくりをおこなっています。

 

「滋賀県の「環境こだわり農産物」の栽培基準は、農薬や化学肥料の使用を通常使用量の50%以下に定めたもので、県民の琵琶湖への環境意識の高さから実現したものです。私たちは、それよりもさらに厳しい基準での米づくりに取り組んできました」。(中井さん)

 

その理由は、中井さんが農業留学時代に経験した出来事とお子さんの体調不良にあったのだとか。

 

「大学卒業、2年間アメリカで農業研修生として過ごしました。アメリカの先進的な事例など学ぶために留学しましたが、ポストハーベスト(*)の実態を目の当たりにし、『私たちが口にするものには、こんなにも農薬が使われているのか』と、とても驚き、怖さすら感じました。また、私の長男はアトピーがひどかったことから、まずは食べるものから見直そうと、自分たちが作る米の減農薬と有機質肥料の使用を決めました。試行錯誤の中から病気や害虫に強い稲を育て、薬に頼らずともおいしい米が育つ方法を見出し、現在に至ります」。(中井さん)

(*)ポストハーベスト:長期保存などを目的とし、農作物の収穫後に散布する農薬のこと。

 

榮農場では、減農薬栽培を行っているため、虫や異物の混入を防ぐ機械を導入。収穫した米は低温貯蔵庫で保管し、注文が入る度にここから出荷しています。


厳しい栽培基準を設けた「きらみずき」

大粒でしっかりした食感と瑞々しい甘さ

 

これまでも環境に配慮した米づくりを行ってきた中井さんですが、現在は厳しい栽培基準を設けた新品種「きらみずき」の栽培にも奮闘しています。

 

環境こだわり農産物のほ場であることを示す看板。きらみずきの区画にも掲げられています。

「榮農場における「きらみずき」の栽培では、農薬は田植え後に除草剤を一度散布するのみ。それ以降は、一度も使用しません。また、化学肥料も使わずに有機質の肥料で育てています。普段から榮農場では厳しい基準で栽培していますが、初めての品種はやはり気を使います」。(中井さん)

 

また、きらみずきは、厳しい栽培基準を設けた上で、味わいの良さも追求した品種です。

 

「コシヒカリなどが粘り気のある、甘みの強い味とすれば、「きらみずき」はあっさり。でも、しっかりと旨みもあるおいしいお米です。洋風の料理にもよく合う味わいだと思います。これまでお米を食べていなかった方たちにも好まれる味に仕上がっています」。(中井さん)

 

 

今年の新嘗祭の献上米に決定

 

献上される米の区画は仕切られ、大切に育てられています。

きらみずきは、今年の新嘗祭の献上米に決定。榮農場で育てたものが奉納されることになりました。

 

「献上米に選ばれたことは、大変光栄なことです。実は30年前、滋賀県で行われた全国農業青年の集いに現在の両陛下がお越しになり、お話をする機会をいただきました。その時、『農薬を使わず、有機質肥料で育てたお米を召し上がっていただけるように頑張ります』とお伝えしたことが時を経て現実になりました。田んぼには献上米の区画を作り、大切に育てています。両陛下に召し上がっていただくことを思うと、今年はいつもとは違う米づくりで、とても緊張しています。9月中旬の稲刈りまで気の抜けない毎日が続きます」。(中井さん)

 

 

お米離れを食い止めたい

いつかはごはん料理のお店を

 

現在は、献上米にも選ばれた新品種「きらみずき」の栽培で忙しい日々を過ごす中井さんですが、将来は榮農場直営の“ごはん料理店”を出すことが夢だとか。

 

中井さんが育てた安心して食べられるお米は、県内の産婦人科や料理店をはじめ、食への関心が高い全国のファンから注文が入るのだそう。「少し高いかもしれないけれど、食べる人を思って手をかけて育てたお米だということを知ってほしいです」と中井さん。

「昭和37年(1962年)には、1人あたりの年間の米の消費量は約118kgでしたが、今は半分以下になってしまいました。お米を食べない人も多く、特に若い人の米離れが進んでいます。いずれは、田んぼの近くにオムライスなどのごはん料理を提供するお店を出したいと考えています。私たちが育てたお米をたくさんの人に食べていただけたら嬉しいですね」。(中井さん)

 

環境にも、食べる人にも優しく、味にもこだわって開発された「きらみずき」。生産者が大切に育てた待望のおいしさを、どうぞお楽しみに。

 

榮農場
■住所 滋賀県栗東市蜂屋720-2
■連絡先 077-552-0353
■ホームページはこちら

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