2025年3月24日(月)公開
花の栽培が盛んだった滋賀県守山市で、初代が昭和30年代半ばからバラ栽培を開始。以降、父の跡を継いでバラを育てる 國枝啓司(くにえだ・けいじ)さんとご子息の健一(けんいち)さんが運営する「WABARA|Rose Farm KEIJI(わばら ろーず ふぁーむ けいじ)」を訪問。バラ作りにかける思いや今後の展開などを伺いました。
守山でバラ栽培を始めた父の元で
経験を重ね、育種の道へ
温度や湿度が管理されたビニールハウス内では、啓司さんが生みだした色や形もさまざまなオリジナル品種が土耕栽培されている。
現在はバラ産地のひとつとして全国的にも知られる滋賀県守山市ですが、その栽培が始まったのは昭和35年(1960年)ごろから。きっかけになったのは、啓司さんの父・栄一(えいいち)さんの“ひらめき”でした。
「守山では昔から菊やスイトピーなどの切り花栽培が盛んだったのですが、昭和30年代はまだ物流が整備されていなかったので、父はトラックに花を乗せて京都の市場まで納品に行っていたそうです。そこで、当時は珍しくて高値で取引されるバラを見かけたものの、主な産地だった神奈川県から運ばれてくる間に鮮度が落ちてしまうと業者が嘆くのを聞き、それなら自分が育ててみようと考えたそうです」。(啓司さん)
経験のないバラ栽培に挑戦しましたが、虫害や病害など問題は山積み。寒さには耐性がある一方、暑さには決して強くないバラにとって日本の気候風土は向いているとは言えません。しかし栄一さんは経験を重ね、次第に規模を拡大していきました。
「私も父のバラ園を手伝っていましたが、そこは兄が跡を継ぐことになっていたので、平成15年(2003年)に独立。自分の農園では育種(いくしゅ)に主眼を置くことにしました」。(啓司さん)
育種で心がけるのは
日本人が好む色や容姿
リアのような咲き方が特徴の「雅(みやび)」。外側と中心部の色合いが違うのもポイントで、花弁の開きに合わせてグラデーションが変化していく。
建築家であり、デザイナーとしても活躍したシャルロット・べリアンにささげるバラとして作り上げた特別なバラ「シャルロット・べリアン」。
バラの歴史は古く、古代ペルシャでも栽培されていて、クレオパトラが愛好していたことでも知られています。花の形、樹形、咲く時期が多様なバラですが、世界には100~250種の原種があり、掛け合わせによって誕生した品種は1万種とも2万種とも言われています。
「品種を掛け合わせて新しい品種を作ることを育種と呼びますが、私が始めた43年前は育種を行っているのは主に種苗メーカーで、育種をする個人は非常に少なかった。からこそ私は挑戦し甲斐があると思いました」。(啓司さん)
啓司さんが育種の際に心がけているのは、日本的な文化や美意識を反映した色や容姿の追求です。
「具体的には、ひとことで何色と表現できないような中間色、ニュアンスのある色合いです。バラは香りも大切な要素ですが、香りが強い品種は花持ちが悪い。香りが良くて長く咲き続ける品種を作るのは簡単ではありませんでしたが、育種を始めて43年、香りと花持ちを両立する品種も生み出すことができました。そして現在、世に送り出した品種は70種類以上になりました」。(啓司さん)
父子が丹精込めて栽培
花びらやエキスを使う加工品の販売も
房咲きの「葵-風雅」は、京都三大祭のひとつである葵祭のように雅で厳かな雰囲気を持つことから命名された葵シリーズの派生品種。絶妙な色彩が特徴。
約5500㎡の広さがある温室内は冬場でも少し動くと汗ばむぐらいの温かさ。夜間も18度以下にはならないように管理されています。
「ハウス内で栽培しているのは主に切り花として出荷するバラです。海外にも品種をライセンス輸出していて、アメリカやケニア、コロンビア、エクアドル、メキシコなどで栽培していただいています」。(健一さん)
そう話す健一さんは、啓司さんが育種を始めた年に誕生。学生時代から父の仕事を手伝ってきましたが、職業として継承するつもりはなかったとか。そんな健一さんの思いを変えさせたのは、郷里を離れて東京やドイツで暮らしていた時でした。
「東京でサラリーマンをしていた時、父の花をプレゼントするととても喜んでもらえました。そこで初めて、お花を受け取った方の喜ぶ声や顔は知らなかったことに気付きました。また学生時代にドイツで2年間を過ごすなかでも、世界で活躍するには何か特別な技術やコンテンツが必要だと感じました。それらが合わさって父の作るオリジナルなバラの可能性に気付き、これを拡げていきたいとの思いに至りました」。(健一さん)
平成17年(2006年)10月、父が営むバラ園に就農。健一さんは父が誕生させたバラのたおやかさに改めて感銘を受け、育種で生まれた品種の総称を「わばら」と命名。さらに、心を打つバラ作りに欠かせないのは土に根差した自然の姿だと考え、多様な微生物が住む土作りにも力を注ぐようになりました。
無肥料無農薬で育てたバラの花びらだけを使用したお茶。品種によって味や香りが異なる。
切花でも園芸苗でもない新たなバラが楽しめる「おへやで育てるばら」。右のボトルは、切花や園芸苗の水質を保つために開発した銀イオンのリキッド。
「私たちは、育種と栽培をはじめ、食用・加工用のバラも栽培していて、それらを使った食品・化粧品などの製造・販売も行っています。育種から加工、製造、販売、そして海外展開までを一貫して行っているバラ園は、おそらく世界でも私たちだけなのではないでしょうか」。(健一さん)
現在、切り花をはじめとする自社商品はネット販売が主ですが、農園の一画にテイクアウト形式のフードトラックや直売スペースのオープンも計画されています。
WABARA|Rose Farm KEIJI
■住所 滋賀県守山市杉江町1465 ※農園はイベント時以外は非公開
■連絡先 contact@rosefarm-keiji.net
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