年中無休で、昔ながらの味と食感を守り続ける

2025年3月18日(火)公開

 

 

 

滋賀と京都を結ぶ路面電車のターミナル駅前、クルーズ船が発着する港にも近い大津市の中心部にある「三井寺力餅(みいでらちからもち)」。大津名物として親しまれている力餅の製造兼販売所で、併設の甘味処では作りたてを味わうこともできます。早朝から暖簾を掲げ、年中無休で営業を続ける商いへの思いや店の歴史などを5代目店主の滋野啓介(しげの・けいすけ)さんに伺いました。

 

 

 

 

 

 

荒法師の伝説に因んだ

大津名物は串に刺した餅

 

できたての力餅は、路面電車が行き交う様子が眺められる入口横のスペース、信楽焼のたぬきや石臼が配された風雅な庭を前に寛げる1階奥のスペースで味わえる。店舗の2階には、入場無料で自由に見学できる大津絵のギャラリーもある。

 

 

平安時代末期の僧兵で、源義経に従者として仕えた武蔵坊弁慶には、怪力や豪傑を物語る伝説が数多く残されています。

 

「比叡山西塔谷武蔵坊で修行に励んでいた弁慶は相当な荒法師で、その腕力は多くの僧に恐れられていました。当時、延暦寺と三井寺の僧達は仲が悪く、折にふれて争っていましたが、やがて比叡山の僧が挙兵。弁慶を先頭に立てて三井寺に攻め込み、数多くの堂塔伽藍を焼き尽くしました。さらに、美しい音で知られた梵鐘を略奪。これを比叡山まで引きずり上げたのが弁慶だったと伝えられています」。(滋野さん)

 

延暦寺に持ち帰られた鐘を撞くと「イノー(去のう)、イノー」(帰りたいの意味)と響いたそうで、それを聞いた弁慶は「そんなに三井寺に帰りたいのか」と怒って谷底に投げ捨ててしまいました。後年、弁慶によって返却され、今も三井寺に保管されている巨鐘にはその際にできたと伝わる傷跡が残っています。

 

「江戸時代の初期、この伝説に因んだ餅が商われるようになりました。それが三井寺力餅の始まりです。当家は明治2年(1869年)に初代・滋野半兵衛(しげの・はんべえ)が現在の地で創業しました」。(滋野さん)

 

その後、近くにあった親戚筋の店舗を統合。太平洋戦争末期は軍に饅頭やどら焼などの甘味を提供する業態に切り替えながらも休むことなく商いを続け、昭和20年(1945年)の終戦を受けて力餅作りを再開。以来、年中無休で営業を続けています。

 

 

 

 

 

 

早朝から手作りする餅に

緑色のきな粉をたっぷりと

 

つき上がった餅を1個1個手作業で丸め、串に刺していく。

 

注文が通ったら、餅に特製の蜜をたっぷりかけ、オリジナルのきな粉をまぶす。

 

 

「力餅は近所の方々にご愛用いただいているのはもちろん、手みやげにお使いいただくことも多いので、お出かけ前に寄っていただけるよう、店は朝7時から開けています。そのタイミングで店頭にできたてを並べるため、餅生地を作る作業は朝の4時ごろから始めます。その作業は私にしかできないため、出張はもっぱら日帰り。旅行も滅多に行きません。行くとしても近場に一泊だけで、朝、餅生地を仕込んでから出かけます。ただ、近年、それでは技術が絶えてしまうかもしれないと思い直し、次世代への技術継承を始めています」。(滋野さん)

 

蒸してついた餅はひと口大に丸めて串に刺し、特製の蜜を掛け、白大豆と青大豆、抹茶をブレンドしたオリジナルのきな粉をまぶします。

 

「持ち帰り用にもきな粉をたっぷり掛けるので余るんです。でもその余ったきな粉の使い方を工夫するのが楽しいと仰られるお客様も多くて、ご飯に振りかけておはぎ風に、牛乳やヨーグルト、アイスクリームなどに加えても美味しいと評判です」。(滋野さん)

 

 

 

 

 

 

消費期限を延ばすチャレンジを経て

昔ながらの無添加に

 

献上菓子でもある力餅。贈答用の箱入り(7本入り~)を始め、家庭用のパック入り(3本入り~)も販売されている

 

 

力餅の原料は、餅粉と砂糖、きな粉、抹茶、水あめのみ。添加物を使わないため、消費期限は製造日の翌日です。

 

「本店以外に近隣のホテルなどでも販売していますが、そちらには作りたてを毎朝配達しています。遠方に発送してほしいとのお声も良くいただくのですが、消費期限が2日なので地域が限られます。その状況を何とかしたくて、実は10年ほど前に期限を延ばす挑戦をしてみたことがありました」。(滋野さん)

 

保存料の添加を決意。餅を作ってみたところ、味は変わらないものの、特徴であるふわっとやわらかな餅の食感に変化が生じてしまいます。

 

「保存料を使うことで伸ばせた消費期限がわずか1日。コストも嵩みましたが、それでも遠方にお送りできるならと思って半年ほど続けてみましたが、長くご利用いただいているお客様から作り方を変えたのかというお問合せが何件も届きました。お客様の感覚の鋭さに驚き、嬉しくなると同時にやはり守るべきは伝統だと思い、きっぱり止めました」。(滋野さん)

 

一方、若い世代にも力餅を知ってほしいと、本店併設の甘味処限定のソフトクリームを考案。抹茶碗に好みのソフトクリームと力餅が盛り付けられたビジュアルが話題を呼び、SNSなどでも度々発信される新名物になっています。

 

 

本店の甘味処限定の力餅ソフトクリーム。ソフトは、定番のバニラ・抹茶・黒胡麻と季節限定フレーバーの中から選べる。

 

 

大津の街を散策する際、立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

三井寺力餅本家

■住所 滋賀県大津市浜大津2丁目1-30

■連絡先 077-524-2689

■ホームページはこちらから

 

 

 

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