2023年3月15日(水)公開
井伊家の城下町だった彦根には、武士が使う刀の鞘や甲冑などの製作に携わる武具職人が数多く集められていました。ところが江戸時代に入って世の中が平和になったため、その多くが磨き上げた技術が存分に生かせる仏壇製造業に転業。それが彦根仏壇の始まりだと言われています。
「国の伝統的工芸品の指定を受けた仏壇産地は全国に15産地あるのですが、そのほとんどが旧城下町。武具職人が仏壇製造に転業するのは必然だったのかもしれません。加えて、彦根市のある滋賀県東部(湖東)は古くから仏教への信仰が篤い地域だったため、徳川時代には仏壇を置くことが一般的になっていました」。(宮川さん)
明治以降、販路を全国に拡大。明治39年(1906年)には彦根仏壇同業組合を結成して品質向上に努めたため、明治末期には生産高が飛躍的に向上しました。昭和50年(1975年)には、仏壇仏具業界初となる伝統的工芸品として国が指定。現在、組合には商部10社、工部17社が所属し、日々研鑽を積んでいます。
主に欅や檜、杉などの頑丈な木材を用い、漆と金箔で装飾を施す大型仏壇である彦根仏壇。工部七職と呼ばれる、仏壇の本体を作る木地師、彫刻師、須弥壇(しゅみだん)上の屋根部分を造る宮殿師、塗師、金箔師、図柄を担当する蒔絵師、装飾用の金具を造る錺(かざ)金具師が各工程を担当。徹底した分業制を敷いて品質を向上させています。
「主要部分に釘やネジなどを使わないのも伝統。ですから、長い時を経た仏壇の修理や洗濯をバラバラにして行うことも可能です。修復後、元通りに組み立てれば新品さながらに生まれ変わります。一生ものどころか二生でも三生でも大丈夫と言われる所以です」。(宮川さん)
四尺と呼ばれる幅125センチの大型サイズが彦根仏壇の本領ではありますが、現代の住宅事情に合わせた家具調の仏壇なども企画・開発しています。
「お若い方が伝統的な大型金仏壇を求められるケースもありますし、常に仏様と一緒に居たいからリビングにもなじむ現代的なデザインを選ばれる年配の方も。臨機応変な姿勢を大切にしています」(宮川さん)
デジタル化にも積極的。本店と支店、工場をオンラインで結び、タブレットを通して来店客の要望にスムーズに対応する取組も行われています。
七職のひとつである蒔絵師は、多彩な技法を駆使して美しい図柄を生み出すのが仕事。仏壇全体の印象を左右する役割を担っています。
昭和15年(1940年)に創業した「きたしん」の3代目である北村順治さんは、94歳で他界した父の技を間近で見て仕事を覚えました。引き出しの扉などに山水や花鳥図を一筆ずつ漆で描く作業は繊細そのもの。金粉や銀粉、朱や緑の色粉を蒔きつけたり、青貝を貼るといった技法を使い分けて美しい図柄を描き出します。
蒔絵は一発勝負。集中力が求められる一方、作業ごとに漆を乾燥させる時間も必要なので、どの部分から先に描くかなどの段取りも大切です。
「この仕事を始めて約30年になりますが、気力は今が一番充実しているかもしれません。ただ、一日でも仕事をしないと腕が鈍る。父みたいに長く仕事ができるよう、日々技を磨いています」。(北村さん)
永楽屋 彦根本店
■場所 滋賀県彦根市芹中町40
■問合せ 0749-22-1466
■ホームページはこちら
きたしん
■場所 滋賀県彦根市立花町2-48
■問合せ 0749-22-3953
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