2022年12月8日(木)公開
「丁字麩の歴史は、190年ほど前から始まったのではと言われています」(加納さん)。
由来に関する文献などは残っていないそうですが、1830年の近江八幡の商家の献立記録に“丁字麩”の名が記されているとか。
「“丁字麩のぬた”、“丁字麩と大根のみそ汁”と書かれています。商家の献立に登場するくらいですから、きっとこの当時には一般に食されるものであったのだと思います。うちが創業したのは、その少し後。1848年(嘉永年間)に近江八幡でお商売を始めています。滋賀県に7軒ある丁字麩の製造元のうち3軒が近江八幡にあり、この街で古くから親しまれてきた食材であることがわかります。今も、滋賀県内の各家庭や仏事などでよく食されており、滋賀の食文化にとって欠かせない食材です。」(加納さん)
麩というと、全国的には小さな丸い形のものがポピュラーですが、丁字麩は四角く、厚みのある形が特徴です。
「私が聞いている話では、行商に持っていくのに丸い形だと梱包の効率が悪く、すぐに潰れてしまうため、四角い形に焼いて売りに歩いたとか。その副産物として、しっかり焼かれた厚い外側とふんわりとした内側の生地ができ上がりました。鍋やお汁に入れるともっちりとした食感になるのは、そのためです。」(加納さん)
あえて、もちもちの食感を狙って作ったのではなく、行商の効率を考えたという誕生秘話を持つ丁字麩。しかし、その製造方法はシンプルながら時間と手間がかかります。
「使用するのは、小麦粉、グルテン、水のみ。小麦粉とグルテンを混ぜ合わせ、生地をしっかりと捏ねて、しばらく寝かせます。気温で生地の状態が変わるため、見極める目も必要。特に暑い日は生地がダメになりやすく、作り直すときもあります。きめが細かくなったら焼き型に入れて、約10〜12分焼成します。その後、1日乾燥させると丁字麩が完成します。」(加納さん)
「今は、細長い焼き型を使い、一度にたくさん焼いてますが、昔はたい焼きの型のようなものを使って、少しずつ焼いていたそうです。焼き型は時代とともに変化しましたが、作り方の基本は190年前から変わらず、今に受け継がれています。」(加納さん)
江戸時代から変わらぬ丁字麩をもっと知ってもらい、楽しんでもらえるようにと、加納さんが日頃からよく食べるというメニューを教えてくださいました。
「定番は、すき焼き。具材にすれば、甘辛いタレともちもちの麩が絡まってとてもおいしいです。麩自体に味はほとんどないため、汁を吸わせるお料理との相性が抜群です。皮がしっかりとしているので、具材の一つとしても存在感があります。」(加納さん)
アレンジとしてオススメなのが「磯辺揚げ、八宝菜、肉じゃが」なんだとか。
「磯辺揚げは、水で戻した丁字麩を醤油で味付けした溶き卵に入れて、海苔を巻いて揚げるだけ。八宝菜は、具材と一緒に丁字麩を加えて炒めます。肉じゃがは、ある程度、具材に火が通ったら丁字麩を加えて少し煮込みます。噛んだ時にジュワッと溢れる煮汁が最高です。」(加納さん)
他にも、パン粉の代わりに砕いた丁字麩を使うフライや、お汁粉にいれる甘味へのアレンジも。
「定番の汁物や鍋の具材としてだけでなく、いろんな料理や食べ方で楽しめる丁字麩。滋賀に伝わる伝統食をぜひ試してみてください。」(加納さん)
麩惣製造所
■場所 滋賀県近江八幡市博労町元23
■問合せ 0748-32-2636
■ホームページはこちら
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