2023年2月14日(火)公開
ふなずしの専門店として150年以上の歴史を持つ老舗「元祖阪本屋」。内田さんによると、元祖阪本屋のルーツは江戸時代、現在の大津市に膳所城があったころまで遡ります。
「膳所藩お抱えの料亭で、ふなずしを名物としていた『阪本屋』から明治2年にのれん分けをしてもらい、この『元祖阪本屋』ができました。北国海道と東海道が交わり、人の往来が多かったこの辺りに、ふなずし専門の店を出したんです」。(内田さん)
当時は、宿場町の料亭から注文を受けて販売をしていたのだとか。「ふなずしはもともと料亭で食べたり、それぞれの家で作って自分たちで食べるものでした。」と内田さんは言います。
元祖阪本屋のふなずしになるのは、琵琶湖産の天然ニゴロブナのみ。毎年3〜4月に水揚げされる、産卵を控えて卵をたくさん持ったメスを使います。ふなずしをスライスしたときに見えるオレンジ色の部分が卵です。
「ふなずしそのものはメスでもオスでも作ることができますが、御進物はやはり子持ちのものが喜ばれます。卵を持ったニゴロブナがとれるのは一年でも春先だけ。時期も漁獲量も限られています。ですからたくさんは作れないんです」。(内田さん)
卵を抱えた美しく縁起の良いオレンジ色のふなずしをつくるには、漬け込むときの丁寧な手仕事が欠かせないのだとか。
「“筒抜き”と呼ばれる作業には、熟練の技を要します。鮒のウロコをとった後、お腹を割かずに、口から針金を入れて内臓をとります。中は見えませんから、指先だけの感覚です。技術がある人しかできません」。(内田さん)
さらに…。
「“筒抜き”は新鮮なうちに行うことも大切です。元祖阪本屋では、沖島でとれたニゴロブナを仕入れたらすぐ作業にかかります。卵を傷つけずに内臓だけをすべて取り去ってしまわないと、卵が黒く変色したり、腐敗の原因にもなるんです」。(内田さん)
ふなずしづくりは全てが手作業かつ、時間を要する仕事だそう。
「気を遣う仕事が続きます。春から夏まで塩漬けしてたら、次はニゴロブナを取り出して、きちんと洗って、一晩干して、ご飯を詰めて、桶に重ねて入れて……と、作業はシンプルですが、一つひとつ確認しながら、手抜きのないようにしないと、匂いのキツいふなずしになるんです。機械に頼るところはひとつもありません」。
「桶への漬け込みを行ったら、あとは発酵の力に任せます。半年ほど漬けてお正月に食べるのが“新物”です。サイズが大きいものは1年以上漬け込んでいます」。(内田さん)
長い時間をかけてゆっくりと乳酸発酵が進み、完成するふなずし。作り方は毎年同じですが、味わいは、その年の気候や菌の状態によって少しずつ異なると言います。
「同じようにしていても味は違います。自然の発酵ですから、私たちの力ではどうしようもない。年によって暑い、寒いといろいろありますから、丁寧な仕事をしたらあとは委ねるだけ」。(内田さん)
味わいや風味の違いを楽しむのもふなずしの醍醐味です。
お正月やお祝いの席の一品として、また、お酒の肴としてのイメージがあるふなずし。最近では発酵食品であることが注目され、さまざまな食べ方が考案されたり、大学や企業での研究の対象にもなっています。
「近年は、ふなずしの鮒だけではなく、漬けていたご飯・飯(いい)にも注目されて、これをチーズやオリーブオイルと混ぜてパンに塗ったりする方もおられると聞きます。」(内田さん)
「古くから各家庭でつくられてきたふなずしは、927年に記された書物にはすでに滋賀の名物として載っています。千年以上の歴史がある食べ物ですから、これからも残していきたいと思います」。(内田さん)
元祖阪本屋
■住所 滋賀県大津市長等1丁目5番21号
■電話 077-524-2406
■営業時間 9:00~18:00
■定休日 日曜
■ホームページはこちら
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