2024年09月06日(金)公開
奈良時代の僧・行基(ぎょうき)が、三宝大荒神(さんぽうだいこうじん)の像を祀ったことから荒神山(こうじんやま)と呼ばれるようになった標高284mの独立峰。その山麓に広がる石寺地区は、昭和36年(1961年)に始まった曽根沼(そねぬま)干拓事業によって生まれました。
「当初は米などを作っていたそうですが国の減反政策を受け、他に適した農作物は無いかと探した結果、梨が向くのではとの意見が出たと聞いています」。(吉田さん)
石寺地区一帯は、水資源に恵まれている、琵琶湖から吹く風が良く通る、夜は荒神山からの冷気が下りるため寒暖差があるなど、果物栽培に適した条件が揃っていました。そこで昭和56年(1981年)、4.5haの土地に苗木を植樹。平成9年(1997年)には、ほ場整備を行って「彦根梨生産組合」も設立しました。
「現在、組合に属している農家は17軒。総栽培面積は10.4haになります。他の梨産地に比べると小規模ですが、この規模だからこそ可能な連携をしっかり取りながら、糖度が高くてみずみずしい梨を栽培しています。個人としては10年前に妻の父が作った約80aのほ場に260本の木を植えていますが、私は非農家出身。結婚後に高齢化などによる後継者問題を知り、就農を決意。土をさわったこともなかったため、滋賀県立農業大学校就農科で1年間の研修を受けました」。(吉田さん)
日本梨は収穫時の熟度が高いほど食味が良くなり糖度も上がりますが、収穫後は追熟しない特性があります。そのため樹上で熟した果実を収穫するのが理想ですが、完熟梨は日持ちがしないため、一般的には熟度が低い状態で収穫する“青採り”が行われています。
「完熟前に収穫した梨は日持ちしますが、どうしてもエグミや青臭さが出てしまいます。一方、樹上完熟した梨は果汁たっぷりで甘く、歯ごたえも良い。その味を楽しんで欲しいので、組合では日持ちよりも樹上完熟させることを優先。その代わりに一般市場にはほぼ出さず、主にJA東びわこの直売所で販売しているため“幻の梨”とも言われています」。(吉田さん)
現在、栽培している梨は5品種。少し扁平な形で桃のような香りを持つ「筑水(ちくすい・収穫期:8月上~中旬)」、さっぱりした甘さが特徴の青梨「なつしずく(収穫期:8月上~中旬)」、緻密な肉質とみずみずしい甘さの「幸水(こうすい・収穫期:8月中旬~9月上旬)」、甘みと酸味のバランスが良い大玉種の「豊水(ほうすい・収穫期:9月上~中旬)」、酸味が少なく甘みが強い大玉種の「あきづき(収穫期:9月中旬~下旬)」。いずれも樹上完熟させてから収穫。光センサー式選果機で糖度・熟度・内部障害が無いかを全量検査し、基準をクリアした梨だけを「彦根梨」として販売しています。
「地元で人気が高いのは幸水で、これが主力品種です。程好い酸味がある豊水も私は好きですね」。(吉田さん)
吉田さんは令和5年(2023年)開催の「滋賀県果樹品評会」に幸水を出品。1位を獲得した後も品質の向上に努めています。
「品評会の1位を3回は取らないと梨名人にはなれないと言われていますし、現実は教科書通りに進まないことも多い。けれども困った時にはノウハウを惜しみなく教えてくれる仲間がいます。皆さんが培って来られた知恵をもらいながら、そこに自分なりの工夫も加えつつ、今後、新規就農される人が出てきた時は自分もわかりやすく伝えられるよう成長していけたらと思っています」。(吉田さん)
梨の木は植えてから30年ほどで収量がピークに達し、以降は減少していくと言われています。
「ちょうどウチの木は40年ぐらい経っているので、改植を行わなければならないタイミングに来ています。一度にすべてを植え替えると収入が無くなるので、3年前から一本置きに改植。一般的に、4年目ごろから収穫できるようになりますが、しっかり収量が見込めるのは植えて8年後。梨は、手を掛けた分だけ、美味しくなると思っているので、日当たりが良くなるように枝を整えたり、毎日“ありがとう”と声を掛けて育てています」。(吉田さん)
就農直後は梨の木を枯らせてしまって落ち込んだこともあると話す吉田さん。失敗を糧に、新しい技術も積極的に取り入れながら、梨にたっぷりの愛情を毎日注いでいます。
JA東びわこ営農経済部 稲枝営農経済センター
■住所 滋賀県彦根市本庄町92-1
■連絡先 0749-43-3720
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