日本最古の茶所で育つ、香気高く、滋味深い近江の茶

2024年06月04日(火)公開

 

日本における茶葉栽培の歴史は、延暦24年(805年)頃に唐(現在の中国)から帰国した最澄が、日吉大社(滋賀県大津市)の一隅に持ち帰った茶の実を播(ま)いたことが始まりだと伝えられています。当時の茶は大変な貴重品で、貴族や僧侶しか味わうことができませんでしたが、近年では近江の茶は世界にもファンを増やしています。長く愛飲されている近江の茶の特色や美味しい淹れ方について、「一般社団法人 滋賀県茶業会議所」事務局長の和田龍夫(わだ・たつお)さんに伺いました。

 

 

 

質の高い近江の茶を広めるために

生産者から行政までが一致団結

 

自身も代々続く茶農家に生まれ、役場で近江の茶関連の業務に長く携わってきた和田さん。茶業指導所の茶畑では、やぶきた、おくみどり、さえみどりなど、十数種の茶葉が試験栽培されている。

 

中国浙江省(せっこうしょう)にある「中国茶葉博物館」では、日本に渡った茶の種子が滋賀に播かれた故事をパネルで展示。平安時代に編さんされた史書「日本後記」には、弘仁6年(815年)、大津京の近くにあった梵釈寺(ぼんしゃくじ)に行幸された嵯峨天皇に、僧・永忠(えいちゅう)が茶を煎じて奉じたとの記録も残されています。

 

「茶の実から芽が出て葉が収穫できるぐらいに育つまで、ちょうど7年程度かかると思われますので、嵯峨天皇には初摘みの葉を奉じたのではないでしょうか。これが日本初の“喫茶”の記録だと言われています」。(和田さん)

 

そんな日本最古の茶所で高品質の茶が栽培されていることを県内外に広め、産地の活性化を図るため、平成7年(1995年)に結成されたのが「社団法人滋賀県茶業会議所」です。

 

「茶業会議所と名付けられた法人や団体は京都や三重、静岡、鹿児島にもありますが、滋賀県の場合は生産農家から販売業者、関係農協、行政に至るまで、茶業に関わるすべての機関が参加する、全国的にも稀有な取組になっています」。(和田さん)

 

平成25年に一般社団法人となった滋賀県茶業会議所の主な活動は生産支援と近江の茶のPR。生産支援については、毎年開催される全国・関西茶品評会への出品奨励と、茶の品質を高める目的で滋賀県荒茶品評会を開いています。広報面では、最高品質をPRするために「極煎茶比叡」と「琵琶湖かぶせ」の2ブランドを製造販売。国内外で実施する試飲会に加え、甲賀市や草津市の小学校においては、農林水産省が推進する「茶育」プロジェクトの一環として、美味しい茶の焙じ方や淹れ方などの授業を行っています。

 

毎年9月15日から新茶が販売される、香り豊かな浅蒸しの「極煎茶(きわみせんちゃ)比叡」と、新芽に10日以上覆いをかけて旨みを出した「琵琶湖かぶせ」。いずれも、最高級の茶葉を使っている。

 

小規模な産地だからこそ

丁寧に手をかけてじっくりと

 

収穫された茶葉を蒸し、いろいろな工程で、熱を加えながら揉み上げ乾燥したものが荒茶で、切断、火入れ、選別、調整など仕上げ加工され商品となる。

 

「滋賀県内の茶農家が生産した茶葉を、滋賀県内で荒茶加工されたもの」と厳格に定義されている近江の茶の産地は4カ所。かぶせ茶の生産が盛んな甲賀市土山町(こうかしつちやまちょう)の土山茶、全国茶品評会煎茶の部で何度も農林水産大臣賞を獲得している甲賀市信楽町(しがらきちょう)の朝宮茶(あさみやちゃ)、室町時代からの歴史を持つ東近江市の政所茶(まんどころちゃ)、代々の天皇に献上してきた日野町の北山茶です。なかでも、京都の宇治茶、静岡の川根茶と本山茶 (ほんやまちゃ)、埼玉の狭山茶と共に日本五大銘茶と称されている朝宮茶の産地は標高が高く、山間傾斜地に位置するため、昼夜の温度差が大きいのも特徴です。

 

甲賀市信楽町上朝宮の茶園。

 

「春先でも夜は零度以下まで気温が下ることもあり、日中との温度差が14~15度もあることも珍しくはありません。このため、香気に優れた茶葉が収穫でき、それが近江の茶の特色のひとつにもなっています」。(和田さん)

 

甲賀市信楽町上朝宮の茶園では、水はけと日当たりが良く、手入れがしやすい斜面だけに茶の木を植え、栽培に向かないゾーンには他の樹木を植える、または従来からある雑木をそのまま生かして風よけなどに利用しています。

 

「滋賀県は荒茶の生産量だけで見ると全国15位。産地としては小規模ですが、だからこそ質にこだわった栽培や製造方法を守っています。近年は海外でも近江の茶が注目されていて、現地でも茶の淹れ方などをデモンストレーションしてきましたが、毎回とても好評です。その効果もあって、アメリカの各都市や台湾、ヨーロッパへの輸出も増えています」。(和田さん)

 

 

茶カテキンとテアニン

溶出させる成分次第で風味が変わる

 

かつて薬として扱われてきた緑茶には、抗酸化作用や虫歯予防作用、高血圧低下作用、血糖値上昇抑制作用などが見込まれる茶カテキンが含まれています。

 

「緑茶に分類されるのは、煎茶、かぶせ茶、玉露、ほうじ茶、抹茶など。茶葉を発酵させると烏龍茶や紅茶を製造することができます。滋賀県で多く作られているのは、煎茶とかぶせ茶、ほうじ茶ですが、茶カテキンを多く溶出させるには高温のお湯を使います。けれども、この場合、渋みも強く出てしまいます。飲んで美味しいのは、旨み成分であるテアニンを多く溶出させたお茶で、60度ぐらいが適温です。簡単なのでよくお勧めしているのは、水出し。冷蔵庫で一晩かけて溶出させる方法です」。(和田さん)

 

一般的に、関東エリアでは緑がかった水色(すいしょく)が特徴の深蒸し茶が好まれますが、地元で愛飲されているのは、香り高い浅蒸し茶。水色は黄金色で、きりっとした渋みとすっきりした後味が特徴。和菓子との相性が良いことでも知られています。

 

ここ滋賀のショップでも美味しい近江の茶を販売しています。ぜひ一度、滋賀の気候風土が育んだおいしいお茶を試してみてください。

 

 

 

一般社団法人 滋賀県茶業会議所
■住所 滋賀県甲賀市水口町水口6750(滋賀県農業技術センター茶業指導所内)

■連絡先 0748-63-6960

■ホームページはこちら

 


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