琵琶湖の恵みの大豆と水で作る「比叡ゆば」

2023年11月16日(木)公開

 

加熱された豆乳の表面に張る、薄絹のような膜をすくい上げて作るゆばが生まれたのは中国。日本には約1200年前に仏教と共に伝わりました。厳しい修行に励む僧侶の貴重なたんぱく源でもあったゆばは、近年、ヘルシーな食材としても注目されています。今回は、いろいろな食べ方ができるゆばについて、「比叡ゆば本舗 ゆば八」の会長・八木幸子(やぎ・さちこ)さんに伺いました。

 

 

天台宗の開祖・最澄(さいちょう)が

仏教と共に持ち帰ったゆば

 

比叡山延暦寺(えんりゃくじ)御用達ゆば製造元「比叡ゆば本舗 ゆば八」は、直営店の大津本店・守山店をはじめ、県内各所、全国でゆばを販売している。

ゆばが日本に伝わったのは平安時代初期。延暦寺を開いた最澄が茶の種と共にゆばの製法を持ち帰り、僧侶たちに広めました。肉食が禁じられていた修行僧にとってゆばは滋養食、かつご馳走。比叡山麓には「山の坊さん 何喰て暮らす ゆばのつけ焼き(かば焼きのこと) 定心房(じょうしんぼう/大根の漬物のこと)」という、ゆばにまつわる童歌が残されています。

 

「山の坊さんとは、比叡山にこもって修行をされる僧侶たちのこと。今もゆばのつけ焼きと定心房は比叡山の精進料理に欠かせない一品です」。(八木さん)

 

ゆばの語源は諸説ありますが、豆乳の表面にできる皮膜が皺(しわ)に見えることから「姥(うば)」と呼ばれるようになり、それがなまってゆばになったと言われています。

 

「京都では“湯葉”、栃木県の日光では“湯波”の字を使うところが多いと思います。いずれも豆乳の表面に浮かぶ葉やさざ波に見立てた、風情を感じる文字使い。精進料理の王様とされるゆばにふさわしい気がします」。(八木さん)

 

 

地産地消、地元滋賀県産の大豆を使い

1枚1枚ていねいに

 

原料に滋賀県産の大豆のみを使用。一晩、水に浸すと右側の写真のような状態になる。

ゆばの原料は大豆と水。一晩水に浸した大豆をすりつぶして熱し、豆乳とおからに分けます。豆のつぶし方や豆乳の絞り具合次第でゆばの風味が変わってしまうと言われる繊細な作業です。絞り出した豆乳は専用の釜へ。90度前後になると表面に薄絹のような膜「ゆば」が張ってきます。これを破れないよう、一枚ずつ慎重にすくい上げます。

 

「すくい始めのゆばは薄く破れやすいのですが、段々とコシが出てきます。引き上げたゆばの形状や色、固さに合う商品に加工します」。(八木さん)

 

大豆は、滋賀県の地元農家で契約栽培されたもののみを使い、食品残渣(ざんさ)であるおからは飼料や堆肥として再利用するなどSDGsにも配慮。この堆肥を利用して栽培する近江米コシヒカリを使った「比叡の湯葉がゆ」も商品開発して販売されています。

 

「米どころで知られる近江の土壌は素晴らしく、ゆばづくりに合う甘みのある良い大豆に恵まれています。美味しいと感動いただけるゆばづくりが弊社の目標。お客様から、今まで食べたゆばの中で一番美味しい!と喜んでいただけると、ゆば屋で本当によかったとやりがいと幸せを感じます」。(八木さん)

 

 

ゆばを日常の食材にしたい

その思い一筋に商品開発

 

生ゆばは定番のワサビ醤油のほか、オリーブオイルと塩でいただくとフレッシュチーズのような味わいに。メープルシロップをかければスイーツとしても楽しめる。

人気の生ゆばは3種類。とろっとクリーミーな「とろゆば」、生ゆばをミルフィーユ状に重ねた「本さしみゆば」、甘味とコクが楽しめる「おさしみゆば」。他にも、汁物にそのまま使える乾燥ゆばなど、商品は多彩。

昭和15年(1940年)、大津で「ゆば八」を開いたのは八木光男(やぎ・みつお)・富栄(とみえ)夫妻。その背景には不思議な縁がありました。

 

「安政元年(1854年)に京都で起きた大火から逃れ、仮皇居の聖護院に移られた孝明天皇(こうめいてんのう)に、側に仕えていた大谷勝子(おおたに・かつこ)の指図で作られたゆばが供されました。天皇と祐宮親王(さちのみやしんのう/後の明治天皇)は大変喜ばれ、炭火で温めた鍋に張るゆばをすくい、海苔とわさびを加えたお醤油でお召し上がりになり、2時間かけてお食事を楽しまれたそうです」。(八木さん)

 

この時、ゆばを作らせた勝子は富栄夫人の祖母にあたります。

 

「ゆば屋を始める前からゆばにご縁があったわけです。孝明天皇が使われた一組の皿は家宝。今も大切に保管しています」。(八木さん)

 

八木さんの夫である憲一(けんいち)さんは両親の跡を継ぎ、昭和44年(1969年)に会社を設立して社長に就任。アイデアマンだった憲一さんは新商品を作っては全国を飛び回って販売網を広げ、県内各所に工場を開設するなど大きく業績を伸ばしましたが、平成6年(1994年)に54歳の若さで急死。残された八木さんは途方に暮れました。

 

「夫が跡継ぎにしたいと思っていた長男の裕(ゆたか)はまだ高校生でした。悲しんでばかりいるわけにはいかず、私が社長に就任。その時、当時は珍味の位置付けだったゆばをもっと身近な食材にしようと決意したのです」(八木さん)。

 

長年の努力が認められて「比叡ゆば」の商標登録を取得。ゆばを使った手軽に食べられる新商品を次々開発、ゆば専門の料理本を出版するなど、ゆばを広めていきました。

 

 

和食だけでなく洋食や中華にも

健康志向にもマッチ

 

平成22年(2010年)に開発した、ご飯に混ぜるだけの「湯葉ちらし寿司の素」は人気商品に。「湯葉まぜごはんの素」や「ゆばカレー」も自慢の品。

平成26年(2014年)、守山市に開設した工場は、ゆば工場としては世界初となるFSSC22000認証を取得。平成28年(2016年)には、ゆば工場として世界初のハラール認証も取得しました。

 

「FSSC22000認証は国際的な食品安全マネジメントシステムで、いわば“世界一衛生的なゆば工場”であることの証。毎日、菌検査や製品検査、リスク管理を徹底しているため、一般的な生ゆばに比べて賞味期限が冷蔵2ヶ月と長いのも特徴です」。(八木さん)

 

平成29年(2017年)、裕さんが社長に就任。八木さん自身は会長職に就きましたが、今も大津本店での販売や講演に多忙な日々を送っています。

 

「弊社は17年後に創業100周年を迎えます。その時、私は95歳になりますが、現役でいることが目標。健康食でもあるゆばを毎日食べているから、必ず実現できると信じています。ゆばはクセがないのでどんな料理にも合います。スイーツも作れますし、生クリームやチーズの代わりにゆばを使えば、高カロリーになりがちなパスタやラザニアがぐんとヘルシーになりますよ」。(八木さん)

 

そのままでも、またアレンジして様々なお料理にも活用できる、歴史ある比叡ゆば。楽しみ方が多彩な滋賀ゆかりの味をぜひ。

 

比叡ゆば本舗 ゆば八 本社(守山店併設)
■住所 滋賀県守山市今市町299
■連絡先 077-514-1102(代)
■営業時間 10:00~17:00
■定休日 土日祝日(守山店は年中無休・盆年末年始を除く)
■ホームページはこちら

 

比叡ゆば本舗 ゆば八 大津本店
■住所 滋賀県大津市中央4丁目3-10
■連絡先 077-526-2689(代)
■営業時間 10:00~17:00
■定休日 土日祝日

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